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本陣殺人事件--二通の手紙(1)
日期:2023-11-22 09:17  点击:294

二通の手紙

「耕さん、耕さん」

 夜具のうえから揺り起こされて、耕助がはっと眼をさましたのは、もう明け方に近い頃

である。気がつくと座敷のなかには電気がついて、枕をならべて寝ていた銀造が、のしか

かるようにして自分の顔を覗いている。銀造のその顔色のきびしさに、耕助はぎょっとし

て、蒲団の上に起き直った。

「お、小父さん、ど、どうかしたんですか」

「なんだか変な音がしたような気がするんだ。琴をかきまわすような音が……夢だったか

も知れないが……」

 二人はそのままの姿勢で、じっと聞き耳を立てている。別に変わった物音はきこえな

い。心臓の鼓動の音まで読みとれそうな静けさの中に唯一つだけ、規則的なリズムをつ

くって動いている物の音がする。それは水車の音だった。

「お、おお小父さん」

 ふいに耕助がガチガチ歯を鳴らしながら、押し殺したようなしゃがれ声で囁いた。

「一昨日の晩……あの人殺しのあった時にも、水車の音がしていましたか」

「水車の音……」

 銀造は驚いて、探るような眼で耕助の瞳ひとみのなかを覗きこんでいたが、

「そういえば……聞こえていたような気がする。……そうだ、たしかに聞こえていた。

……聞きなれた音だから、別に気にもとめなかったが。……しかし、あっ!」

 ほとんど同時に二人は寝床から跳ね起きて、シャツに腕を通しはじめていた。

 琴は再び鳴ったのである。ピンピンピンと糸を弾くような音、それについでブーンと空

気を引っかきまわすような音……畜生、畜生、畜生、しまった。しまった。しまった……

シャツの中でもがもがしながら、耕助は夢中になって叫んでいる。

 昨夜耕助はおそくまで眠れなかったのである。約束どおり磯川警部がとどけてくれた写

真と日記の燃えのこり、それから書斎から持って来た日記帳やアルバム、そんなものを調

べるのに十二時までかかった。そしてそのあと、これまた書斎から持ち出した探偵小説の

ページを、あちこち繰っていたために、眠りについたのは二時を過ぎていたのである。そ

れさえなければ至って眼ざとい自分だのに。……

「小父さん、小父さん、いま何時ですか」

「ちょうど四時半、この間とほとんど同じ時刻だ」

 すばやく身支度をととのえて雨戸をひらくと、今朝はまたひどい霧だったが、その霧の

なかに揉みあっているふたつの影が見えた。ちょうど離家へ通ずるあの枝折り戸のまえの

あたりだ。低い、叱りつけるような男の声と、しくしく泣いている女の子の声が聞こえ

た。それは良介と鈴子であった。

「どうしたんです。鈴子さんが何か……」

 側へかけよって、そう聞きとがめる銀造の声はけわしかった。

「鈴うちゃんがまた、夢遊病を起こしたらしいんですよ」

「噓よ、噓よ、あたし玉のお墓参りに来たのよ。夢遊病なんて、噓よ、噓よ、噓よ!」

 鈴子はまたしくしく泣き出した。

「良介さん、あんたいまの音をきかなかった?」

「聞きましたとも。それでここへ駆けつけたところが、鈴うちゃんがフラフラ歩いている

のでびっくりしたんです」

 そこへ隆二と糸子刀自が霧の中から駆けつけて来た。

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