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本陣殺人事件--墓をあばいて(4)
日期:2023-11-22 09:22  点击:317

 なるほどお清のいったとおり、糸子刀自の紋付きは、漆うるし塗ぬりの衣え紋もん竹だ

けにとおしたまま、まだ長押なげしにぶら下げてあった。耕助はその袂を一つ一つ外から

おさえていたが、突然、その顔にはなんともいえぬほど、嬉しそうな表情があらわれた。

「き、き、君、お清さん、もう向こうへ、行っていてもいいよ」

 お清が妙な顔して立ち去るのを見送っておいて、耕助は袂の中に手を突っ込んだ。

「おじさん、おじさん、手品の種明かしですよ。ほら、舞台の手品師が箱かなんかに懐中

時計を放りこむと、それが消えちまって、やがて見物のポケットから、時計が現われると

いう奴があるでしょう。あんなこと、誰だって知ってますね。見物というのはサクラで、

はじめからこいつのポケットにゃ時計があるんですね、つまり時計が二つあって、問題は

舞台の手品師が、箱へほうりこむ真似をしながら、いかにしてもう一つの時計をかくすか

ということにあるんですね。ほら、その時計がここにあるんですよ」

 袂から出して、ぱっとひろげてみせた耕助の掌にのっかっているのは、波に鳥の浮き彫

りのある琴柱であった。

「耕さん、これは……?」

 銀造は大きく目を瞠って、思わず呼吸をはずませる。耕助はにこにこしながら、

「だからおじさん、言ってるじゃありませんか。手品の種明かしですよ。しかも一番初歩

のね。あの晩……あ、いらっしゃい。こっちへ入っていらっしゃい」

 銀造が振り返ってみると、長い袂の着物を着た鈴子が、おどおどした眼で縁側に立って

いた。

「鈴うちゃん、ちょうどいいところだったよ。あんたに訊こうと思っていたの。ほら、こ

れ、あの琴の琴柱だね。ね、そうでしょう」

 鈴子はおずおず入って来て耕助の掌を見ると無言のまま頷いた。

「あの琴、琴柱が一つなくなっているね。あれ、いつなくなったの?」

「いつだか知らないの。今度出して見たら、なくなってたの」

「あの琴いつ出したの?」

「お嫁さんの来る日よ。その日の朝、お蔵から出して来たの。そしたら琴柱がひとつなく

なってたので、あたしのお稽古の琴の琴柱を使ったのよ」

「あ、じゃお琴はお蔵の中にしまってあったのだね。そしてそのお蔵、誰でも入れんの」

「いいえ、いつもだと誰でもは入れないわ。でもお嫁さんが来るというので、いろんなお

道具、お蔵から出したでしょう。だから先だってはずっとお蔵あいてたわ」

「ああ、そう、そしてみんな出たり、入ったりしてたんだね」

「ええ、みんな出たり入ったりしてたわ。だってお膳だのお椀わんだの、お座蒲団だの、

屛風だの、いろんなもの出さなければならなかったんですもの」

「そう、有難う。鈴うちゃんは利口だね。時に、ねえ、鈴うちゃん」

 耕助はやさしく鈴子の肩に手をかけると、にこにこしながら少女の瞳をのぞきこんだ。

「鈴うちゃんはどうして、死んだ猫のことがあんなに気になるの」

 金田一耕助が後に告白したところによると、その時かれはこの質問が、あんなにも重大

な意味を引き出そうとは、夢にも思っていなかったそうである。かれはただいくらか知能

のおくれたこの少女の胸に、いったいどのような悲しい秘密があって、毎夜猫のお墓のほ

とりをさまようのか、それを知っておきたいと思ったのである。

 だが、この質問を受けると、鈴子はみるみる、怯おびえたように顔色をくもらせた。

「玉……?」

「ああ、玉。鈴うちゃんは何かその玉に悪いことをしたおぼえがあるの?」

「ううん、ううん、そんな事ないわ」

「それじゃ何故……? 鈴うちゃん、玉はいつ死んだの」

「ご婚礼のまえの日よ。朝方死んじゃったの」

「ああ、そう、そして鈴うちゃんはそのつぎの日の朝、玉のお葬いをしてやったんだね。

ね、そうだろう?」

 鈴子は黙っていた、そして急にしくしく泣き出した。耕助は銀造と顔を見合わせたが、

何かはっと思い当たったところがあるらしく、俄かに呼吸をはずませると、

「鈴うちゃんは、それじゃ、ご婚礼の日の朝、玉のお葬式をしたんじゃなかったんだね。

鈴うちゃんはいままで噓をついてたんだね」

 鈴子はいよいよはげしく泣き出した。

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