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本陣殺人事件--墓をあばいて(5)
日期:2023-11-22 09:23  点击:229

「ご免なさい。ご免なさい。だって、玉可哀そうだったんですもの。ひとりで冷たいお墓

の中へいくの、可哀そうだったんですもの。だからあたし、お箱の中へ入れて、押し入れ

の中へかくしておいたの。そしたら、……大兄さんが殺されて……」

「ふむ、ふむ、大兄さんが殺されて……それでどうしたの?」

「あたし、急に怖くなったのよ。だって三ぶちゃん、死んだ猫、いつまでもおいとくと化

けて出るだの、何かよくない事が起こるのって、さんざあたしを脅おどかしたんですも

の。だからあたし怖くなって、みんな大兄さんの事で騒いでる間に、こっそり玉をいけて

来たの」

 これが鈴子の可憐な秘密であった。そしてこの秘密が彼女を苦しめ、彼女を夢遊病者に

したのであった。

「鈴うちゃん、鈴うちゃん、それじゃ玉を入れた箱は、婚礼のときも、大兄さんがあんな

ことになったときも、ずうっと鈴うちゃんのお部屋にあったんだね」

「ご免なさい。ご免なさい。だってあたし、そんな事いうとお母さんに叱られるんですも

の」

「おじさん!」

 ふいに耕助は鈴子のそばを離れたが、すぐ気がついたように、

「鈴うちゃん、いいんだよ、いいんだよ。ね、もう正直に言ったのだから何も心配するこ

とはないんだよ。さ、涙をふいて向こうへいってらっしゃい。さっきお清が探していた

よ」

 鈴子が涙をふきながら、ばたばたと縁側を駆けて行くと、耕助はいきなり銀造の腕をつ

かんだ。

「おじさん、行ってみましょう。猫の墓へ行ってみましょう」

「耕さん、しかし……」

 だが耕助は銀造の言葉をきいていなかった。よれよれの袴の裾すそをひろげながら、は

や玄関のほうへ飛び出していた。銀造ももちろん、その後を追っかけた。

 二人はすぐ、庭のすみにある猫の墓に行きついた。幸いそこには昨日の朝、墓をあばい

たとき使ったシャベルが、まだそのまま投げ出してある。耕助はそのシャベルを取りあげ

ると、すぐ墓を掘り出した。

「耕さん、いったいどうしたというんだね」

「おじさん、あの娘の無邪気な噓が、すっかり僕を目隠ししていたんですよ。猫の棺桶

は、人殺しのあった時分、まだ鈴子の部屋にあったんじゃありませんか」

「だから犯人が、その中へ何かかくしたというのかい。しかし、この墓は昨日もいちど

掘ってみたんだぜ」

「そ、そ、そうです。だからおじさん、い、いまじゃ一番安全な隠し場所じゃありません

か」

 小さな墓はすぐ掘り返されて、白木の箱が現われた。昨日もいちどこじあけられたその

蓋は、釘がゆるんで開くのになんの造作もなかった。箱の中にはまだ少しも形のくずれて

いない、可愛い小猫の死体が鈴子の心尽しの暖かそうな絹蒲団にくるまっていた。

 耕助はありあう棒切れの先で、その絹蒲団をつついていたが、すぐ身をこごめると、蒲

団の下から何やらつまみあげた。それは油紙にくるんだもので麻紐で十文字にからげて

あった。大きさはちょうど小猫ぐらいであった。

 銀造は思わず大きく眼を瞠った。昨日はたしかにこんなものはなかったのである。

 耕助はその油紙のかどを少し破ってなかを覗いたが、すぐそれを銀造の鼻先につきつけ

ると、

「ほ、ほ、ほ、ほうら、おじさん、や、や、や、やっぱりあったじゃありませんか」

 油紙の破れ孔あなから、銀造も中を覗いたが、そのとたんかれは、足下の土もくずれて

いくような、大きなおどろきに打たれたのである。

 おそらくかれは何年生きていても、この時の驚きを忘れることは出来ないだろう。事実

かれはこの事があった直後に、さらにさらにショッキングな発見にぶつかったのだが、そ

の時でさえこの場合ほど驚きはしなかった。

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