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本陣殺人事件--磯川警部驚倒す(4)
日期:2023-11-22 09:25  点击:254

「へえ、このかまに火を入れたなあ、たしか二十五日の夕方でございました。へえ、それ

にちがいございません。ちょうど一柳さんの婚礼の日でございましたから」

「それで、この炭になる木だね。それをかまの中につめたのは……?」

「炭材ですか、へえ、炭材をつめたのはその前の日、つまり二十四日なんですが、その日

は半分ほどつめたきりで日が暮れたのでかえっちまったのです。それでつぎの日の夕方、

残りの奴を詰め、それから火を入れたんです」

「その間に、何か変わったことはなかったかね。これは妙だと思われるようなこと

……?」

「そうですね。実は、二十五日の夕方火を入れてから、その晩ときどき見回りに来たんで

す。そうです、やっぱり二十五日ですよ。雪がさかんに降ってましたからね。ところがど

うも変な匂いがするんです。皮の焼けるようないやあな匂いなんですよ。ひょっとしたら

猫の死骸でもまぎれこみやがったかなと思ってると、そうじゃねえんで、悪いことをする

奴があるもんじゃありませんか。誰かがボロ洋服と靴を、煙突から押し込んで行ったんで

すよ。ほら、向こうに放り出してありまさあ」

 洋服のほうはもう殆ほとんど形をとどめていなかったが、靴の方は黒く炭化したまま、

まだ原形をとどめている。耕助はステッキの先でそれをいじっていたが、

「君この中へ入ってもいいだろう」

「へえ、しかし、もう何もありませんぜ」

 耕助は袴の裾の引き摺ずるのもかまわずに、身をこごめて中へ入ると、暗がりの中でも

ぞもぞしていたが、やがて、頓とん狂きような声で叫んだ。

「き、き、君!」

「へ、へ、へい!」

「あははははは、みんな真似をしやがる。君、すまないがね、大急ぎで一柳さんところへ

行って、警部さんに来て貰ってくれませんか。お巡りさんや刑事がいたらみんな一緒に

ね。あ、それからシャベルを二、三梃持って来るように」

「だ、だ、旦那、そこに何か……」

「いまにわかる。とにかく大急ぎだ」

 炭焼き男が真っ黒な礫つぶてとなって飛んでいったあとで、耕助も鼻の頭を黒くして、

かまの中から這い出して来た。

「耕さん、やっぱりこの中に……?」

 耕助は黙って、ただ力強くうなずいただけだったが、銀造にはそれで十分だったのだろ

う。息を嚥のむような恰好をして、それきり後は問わなかった。耕助もしいんと黙りこん

でいた。晴れわたった秋空から小鳥の声が降るように落ちて来た。

 やがて警部がめいめいシャベルをかついだ巡査と刑事を三名つれて駆けつけて来た。皆

ひどく驚いたような顔で、呼吸を弾ませている。

「金田一さん、な、何か……」

「警部さん、このかまの底を掘って下さい。死骸が一つ埋めてあるんです」

「し、死骸……」

 まるで山や羊ぎの啼なき声みたいな悲鳴をあげたのは、あの炭焼き男であった。刑事や

お巡りさんはそれに眼もくれず、かまの中へ飛びこもうとしたが、銀造は急にそれを呼び

止めると、

「ちょっと待ちなさい。とてもこのままじゃ掘り切れない。君、君、この竈かまどは君の

ものかな」

「へ、へえ」

「それじゃ、あとで弁償するが、この甲羅をこわしちゃいけないかね」

 甲羅というのはかまの天井のことである。

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