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本陣殺人事件--磯川警部驚倒す(5)
日期:2023-11-22 09:25  点击:285

「へ、へえ、そりゃ構いませんが、死骸なんて、死骸なんて、そ、そんな滅相な」

 炭焼き男はいまにも泣き出しそうな顔をしている。刑事とお巡りさんはすぐ蒲鉾型の甲

羅を、叩きこわしにかかった。どうせ、粘土で固めた素人細工だからすぐ毀こわれる。甲

羅がこわれていくにしたがって、真っ暗だったかまの中に陽が流れ込んでいく。やがて甲

羅があらかたとれると、刑事とお巡りさんが中へ飛び込んだ。警部と耕助と銀造は、上か

ら覗きこんでシャベルの先を視つめている。

 やがて土が掘りかえされるにしたがって、にゅっと男の片脚が先ず現われた。その脚は

なんともいえぬ気味悪い色をしていた。

「ひゃあッ、こりゃ裸ですぜ」

「金田一さん、金田一さん、こりゃ一体誰です。今度の事件に……」

「まあ、いいから見ていらっしゃい。いまに、わかりますよ」

 死骸は仰向けに寝かされていると見えて、やがて瘦やせこけた腹から胸へと現われて来

たが、その胸を見たとたん、また刑事が頓狂な声をあげた。

「ひゃあッ、こ、こりゃ殺されてから埋められたんですぜ。ほら、胸のところを恐ろしく

抉えぐられている」

「な、な、な、なんですって?」

 今度は耕助の驚く番だった。文字どおりかれはその場に飛び上がった。

「耕さん、あの男が殺されているというのはいけないのかな」

「僕は──僕は──僕は──まさか、──まさか」

「君、早く顔を掘り出してみたまえ」

 警部の命令ですぐ顔の周囲の土が取りのけられたが、そのとたん、三度刑事がおどろき

の叫びをあげた。

「警部さん、こ、こりゃ例の男ですぜ。ほら、顔に大きな傷がある。三本指の男……」

「な、な、なんだって」

 警部はのびあがって、死体の顔を覗きこんだが、その眼玉はいまにも飛び出しそうだっ

た。ああ、間違いない。実に何ともいいようのない、気味の悪いその死体の顔には、唇の

右端から頰へかけて、長い縫合の痕が走っている。まるで口が裂けているように。

「金田一さん、こりゃいったい、こりゃいったい、あっ、そうだ、君、君、そいつの右手

を掘り出してみたまえ、右手を」

 言下に右手が掘り出されたが、ここで又もや警部も刑事もお巡りさんも、悲鳴に似た叫

び声をあげたのである。なんとその死体には右手がなかった。手て頸くびのあたりからズ

バリと切断されているのだった。

「金田一さん!」

「いいのですよ。いいのですよ。警部さん、これで何もかも平ひよう仄そくがあうんです

よ。はい、お土産」

 警部は血走った眼で孔あなのあくほど耕助の顔を視つめていたが、やがていま渡された

ものに眼を落とした。それはさっきから耕助がぶら下げて、歩いていたハンケチ包みで

あった。

「あけてご覧なさい。猫のお墓から、見つけて来たんですよ」

 警部は手触りで、それがなんであるかも覚ったのにちがいない。はっとしたように息を

吸うと、ふるえる指でハンケチを解き、麻紐を切り、油紙をひらいたが、すると中から出

て来たのは、なんと手頸から切断された男の右手であった。その手には三本しか指がな

かった。拇指と人差し指と中指と。……

「警部さん、これがあの血の指紋を捺おすために使われたスタンプですよ」

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