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本陣殺人事件--予行演習(3)
日期:2023-11-22 09:46  点击:298

 警部のこの質問が出ると同時に、私は遠慮がちに空咳をしてみせた。すると金田一君が

それに気がついて、にこにこしながら、私のほうを振り返った。

「いや、その事については、F先生が説明して下さるでしょう。実はそのために、先生に

ここへ来ていただいたのです。先生、ここでひとつ検屍の結果をどうぞ」

 私ははじめて金田一君が、その発表をいままで延ばすように要請した気持ちがわかって

微笑した。一見、なんの見み栄ばえもないように見えるこの青年にも、やはり芝居気は

あったのである。かれは一番劇的効果のある瞬間までこの事実を発表したくなかったの

だ。

「はあ、それでは、私から検屍の結果を、簡単に申し上げます。あの死体は殺されたの

じゃありません。自然死なんです。詳しいことは解剖の結果を待たねばわかりませんが、

私の判断したところでは、極度の衰弱と過労から来た心臓の故障、そういうところではな

いかと思います。それから胸部のあの傷ですが、あれは少なくとも、死後二十四時間は経

過した後に出たものと思われるのです」

 あっ──と、いう叫びが一同の口からもれた。隆二さんは俄かにいきいきと眼を輝かせな

がら膝を乗り出した。

「それじゃ、あの男は兄に殺されたわけじゃなかったのですか」

「そうですよ。私ははじめからそう思っていた。賢蔵氏がいかにこんどの計画に熱中して

いたとしても、なんの罪もない人物を殺すほどの非道はやるまいと思ったのです」

「しかし、あの傷は……? 胸のあの傷は……?」

「あれはね、警部さん、賢蔵さんが実験をしてみた跡なんですよ。賢蔵さんもさっき私が

やってみたと同じ実験をしたんです。賢蔵さんはああいう計画をたててみたが、果たして

それが、うまくいくか、うまくいくとして、その間どれくらいの時間を要するか。それを

実験してみたかったんです。つまり予行演習ですね。あの死体はその試験台につかわれた

のです。おじさん、あなたの話によると、鈴子さんは事件のあった前の晩にも、やはり琴

の糸を弾くような音をきいていたといったそうですね。実験はそのとき行なわれたのです

よ」

 私たちは思わず顔を見合わせた。隆二さんの顔はふたたび真っ蒼になっていた。それは

殺人ではなかったけれど、殺人と同じ程度に、いやそれ以上に恐ろしいことだった。私は

背筋が寒くなるのをおぼえずにはいられなかった。

「さて、話をふたたびもとに戻して、あの三本指の男は、うらの崖に這いのぼると、間も

なくそこで人知れず息をひきとった。それを賢蔵さんが見つけたんです。それは二十三日

の晩か、二十四日の朝だったでしょう。賢蔵さんはこれぞ屈強の試験台とばかりに、死体

をひそかにこの離家へ担いでかえってかくしておいた。匿した場所は、その床の間のうし

ろの押し入れの中だったでしょう。だからあそこには三本指の男の痕跡がのこっていたの

は、なんの不思議もないことなんです。さて、以上が二十三日の出来事ですが、そのつぎ

が二十四日、つまり結婚式の前日ですね。その日の昼過ぎ、茶の間でひと悶もん着ちやく

起こったことは、皆さんもご存じでしょう。賢蔵さんとお母さんの間に、琴のことで問題

が持ち上がった。ところがそこへ良介さんが猫の棺桶をつくって来る。そしてそのあと

へ、三郎君が散髪屋からかえって来て、三本指の男がこの家のことをきいていたというこ

とを披露する。ところが、その時、鈴子さんが三本指というところから琴を連想した。鈴

子さんとしてはまことに無理のない連想ですが、鈴子さんがその時琴をひく真似をしてみ

せた、ということがこの事件に大きな関係を持っているんです。つまりそれが賢蔵さん

に、はっとある暗示をあたえたんです」

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