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うらみ葛の葉(2)
日期:2023-11-24 14:42  点击:252

 昨日は筆がわきみちへそれたまま、疲れてしまったので手紙が尻きれとんぼになりまし

た。今日は昨日のつづきで葛の葉屛風のことを書くことにします。

 小野のおじさんは、子供のわたしでさえ腹が立ってジリジリするくらい、同じようなこ

とを繰り返していましたが、お祖母さまがなんといっても相手になさらないので、とうと

う諦あきらめてかえってしまいました。くどくどと同じことばかりいっていたときには腹

が立ちましたが、そうしてションボリとかえっていくのを見るとなんとなく気の毒になり

ました。よれよれの兵へ児こ帯おびをちょこんと結んで、結び目の片っ方だけだらりと長

くなっているのが、とても貧乏くさいかんじがして、ずっとせんにお墓参りにかえって来

たときからみると、小野のおじさんもずいぶん年をとられたと、涙がこぼれそうになりま

した。

 それにしても、わたしとお嫂さんとふたりきりだったらどうでしょう。あんなにしつこ

くからまれたら、きっと泣き出してしまいます。お祖母さまがいらっしゃらなければ、こ

の家はほんとうに暗くら闇やみです。お祖母さまはお元気で、気性もしっかりしていらっ

しゃいますが、なんといってももう七十八、お年がお年ですから、さきのことが心配でた

まりません。大助兄さんはまだ消息がわからないし、頼りになるのは兄さんだけです。兄

さん、一日も早くお元気な体になってください。

 おや、また、筆がわきみちにそれました。御免なさい。こんなに無軌道な書き方しか出

来ない鶴代、とても小説家なんて思いもよりませんわね。

 さて、小野のおじさんがおかえりになったあと、お祖母さまもさすがに気づかれをな

すったのでしょうか、しばらく黙って眼をとじていらっしゃいましたが、やがて眼をお開

きになると、お嫂さんのほうを向いて、こうおっしゃいました。

「梨枝さん、あんたお杉にいってね、蔵のなかから屛風を出させておくれ」

 お嫂さんがびっくりして、

「屛風といいますと……?」

 と、お訊ねしますと、お祖母さまは、

「葛の葉の屛風のことですよ。お杉はきっと知っていると思う。あなたも手伝って、ここ

へ持ち出してください」

 と、おっしゃいました。わたしは不思議に思って、

「お祖母さま、それではその屛風、小野さんのところへお返しするの?」

 と、ききますと、お祖母さまは、ただ、

「いいえ」

 と、おっしゃったきり、あとはなんともおっしゃいませんでした。

 お嫂さんとお杉の手で、あの葛の葉屛風が持ち出されたのは、それから間もなくのこと

でした。ほんとうをいうと、さっき小野のおじさんの話をきいているときから、わたしは

この屛風についてはげしい好奇心を抱いていたのです。だって、いままでそんな屛風のあ

ることすら知らなかったのですし、小野のおじさんの話をきくと、とっても立派なものの

ように思えたからです。

 だから屛風が持ち出されると、わたしは胸をワクワクさせ呼吸をつめて、くるんであっ

た油ゆ単たんのとれるのを視詰めていました。

 兄さんは、あの屛風をごらんになったことがございますか。いいえ、お祖母さまのお話

では、もう長いこと出したことがないということですから、きっと御存じないにちがいな

い。その屛風のおもてを見た刹せつ那な、わたしはなんとなくはっとするようなものを感

じました。なぜ、そんな気になったのかよくわかりませんが、急に身内がジーンと冷えて

胸がドキドキするのを覚えました。

 その屛風というのは、二枚折りなのですが、左のほうに葛の葉のすがたが描いてありま

す。それはたぶん安倍の童子にわかれをつげ、良人保やす名なをふりすてて信しの田だの

森へかえっていくところなのでしょう。両りよう袖そでをまえに搔きあわせ、うつむき加

減にうなじを長くさしのべた葛の葉のすがたが、胡粉まじりの淡い線で、いかにもなよな

よと描かれており、裾すそは秋草のなかに暈ぼかされて……そして、右半はん雙そうには

ただひとつ、二日ばかりの糸のような月。背景には一面にきららが吹きつけてあり、その

きららのくすんだ色が、いっそう夜の安部野の淋しさ、もの悲しさをあらわしているよう

に思われます。

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