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大助かえる(1)
日期:2023-11-24 14:43  点击:272

大助かえる

     付、小野昭治脱獄のこと

    〇

(昭和二十一年六月十日)

 今日は村の噂を二、三御報告いたします。

 昨日、小野のおじさんのところへ、見み識しらぬ人が三人、たいへんな権幕で乗りこん

で来たそうです。この三人というのは、O市の刑務所の看守さんだそうですが、このひと

たちの話によって、はじめて昭治さんの消息がわかりました。

 昭治さんはコソ泥を働いて、O市の未決に入っていたのだそうです。ところがさすがに

身を憚はばかったのか、それとも他に大きな余罪があったのか、大島なにがしと偽名を

使っていたということです。ところが、いよいよ公判もちかづいて来たので偽名では押し

通せないと思ったのか、同囚の五、六名をかたらって、床板をはがして、脱走を企てまし

た。そして、ほかの人たちはすぐ見付かって、全部つかまったのに、大島なにがしだけは

見事脱走してしまったのだそうです。

 そこで刑務所では、大島なにがしの名乗っていた、生国へ手配をしたところが、そうい

う該当人物なしということで、はじめて偽名ということがわかり、改めて同囚のひとたち

をしらべたところが、いつか大島なにがしの洩らした言葉のなかに、Y島の囚人作業場に

いたことがあるということをいっていたそうで、そこで早速、Y島へ電話をかけたところ

が、大島なにがしという男はこの作業場にいたことはないが、そういう人相風態の男な

ら、小野昭治にちがいないと、はじめて正体がわかったのだそうです、昭治さんはどっち

かの腕に「御意見無用、命大安売り」という刺青いれずみをしているのだそうです。

 そこで刑務所の人たちが、小野のおじさんのところへ来たのだそうで、なんでも脱獄囚

があった場合四十八時間以内は刑務所の責任とやらで、今朝十時頃まで小野のおじさんの

ところへ張り込んでいて、それから引き揚げていったということです。

 わたしは、昭治さんが気の毒でたまりません。聞くところによると、三月ほどまえY村

へ入った三人組の強盗も、昭治さんたちだったそうで、この時もほかの二人はつかまった

のに、昭治さんだけ逃げてしまったのです。それで警察でも手配中だったとのことです

が、そういうことがあるから、昭治さんもコソ泥でつかまったとき、偽名で通そうとした

のでしょう。しかし、いくら逃げても永久に逃げおおせることは出来ますまいに、罪に罪

をかさねて、ゆくすえはどうなるのでしょうか。昭治さんはずっとまえ、お咲さんにいび

り出されて、三、四年この村の親類にあずけられていたことがありますから、村の人はみ

んな昭治さんに同情しています。昔はあんな人ではなかった。涙もろい、いたって思いや

りの深い子だったのに、これというのも、みなお咲さんのせいだと、みんなお咲さんを憎

んでいます。そうそう。たしか兄さんと同い年で昔は仲のよいお友達でしたわね。だから

昭治さんのことは、兄さんのほうがよく御存じでしょう。

 お咲さんといえば、葛の葉の屛風のことで、あの後二、三度やって来ましたが、お祖母

さまが相手になさらないので、根負けしたのか、このごろ姿を見せなくなりました。お咲

さんは、昭治さんを見付けたら、首に綱をつけて駐在所へひきずっていってやると言って

るそうです。なんて憎らしい人でしょう。

 秋月のおりんさんは、あいかわらずうちの山の木を盗んで困ります。あの人も伍一さん

はかえらないし、うちにひきくらべても気の毒な人と思い、なるべく見て見ぬふりをして

いましたが、ちかごろはだんだんずうずうしくなって自分のうちの焚たきものばかりか、

よそへ売る分まで盗んでいくということです。うちの鹿蔵が口惜しがって、昨日ひそかに

見張りをしていて、盗んでいる現場をとりおさえたところが、いうことが憎らしいではあ

りませんか。

「山と娘は盗みものだよ。それに元来この山は、うちのものだったのを、本位田家に騙だ

ましとられたのだ」

 と、そういって空そら嘯うそぶいていたといいます。おりんさんはお墓の横の、牛小屋

みたいな一軒家に住んでいるのですが、あんな淋しいところにひとりでいて、よく怖くな

いことだと思います。

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09/24 15:24
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