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大助かえる(3)
日期:2023-11-24 14:45  点击:241

 銀さんは日焼けのした体に、借り着の紋付きを着て、暑いのか恥ずかしいのか、いっぱ

い汗をかいていましたが、それでもいかにも嬉しそうでした。加奈江さんは壁のように白

粉おしろいをぬり立てて、手などもまっ白に塗っていましたが恥ずかしいのかろくに顔も

あげませんでした。加奈江さんは色白のポチャポチャと可愛い顔立ちですから、銀さんよ

り三つ年うえだといっても、それほど不自然には見えません。銀さんは小さいとき小児麻

痺を患わずらって、片かた脚あしが少し跛をひき、そんなことから兵隊にはとられません

でしたが、百姓をするには差し支えなく、体も丈夫だし、村でも一番辛抱人ですから、加

奈江さんもきっと幸福になるでしょう。

 玄関だけの挨拶でふたりがかえっていくと、お嫂さんやお杉が、いろいろと取り沙ざ汰

たをしました。

「加奈江さんはパッと派手な顔立ちだから、ああしてお化粧をすると、見違えるほどきれ

いになるわね、銀さんのあの嬉しそうな顔ったら……」

「でも、変ですねえ。兄さんのお嫁さんだったのが、弟のお嫁になるなんて。……しか

も、三つも年下の男と……」

「でも、いいじゃないの。二人とも好きあっているという話だもの」

 お嫂さんは何気なくそういいましたが、するとお祖母さまが、そのあとをうけて、

「そう、あれもひとつの方法ですね。亡くなったひとには気の毒だけど……」

 そういって、お嫂さんの横顔をまじまじとごらんになりました。

 お祖母さまはきっと、そのことを考えていらしたのでしょう。おりおりほっと溜め息

が、つぼめた唇から洩れるのがきこえました。

 そのときなのです。お杉のけたたましい声がきこえたのは。……

「御隠居さま、たいへんです。たいへんです。若旦那が……」

 わたしはてっきり、兄さん、あなたのことだと思いました。ひょっとすると兄さんが、

療養所でまた悪くなられたのではないかと考えました。だが、すぐにそれが勘ちがいであ

ることがわかりました。つぎの瞬間、お杉がころげるように入って来ると、

「御隠居さま、早く出てごらんなさいまし、戦争にいっていた若旦那が、戦友のかた

と……」

 わたしはそれではじめて、大助兄さんのことだとわかって、弾はじかれたように立ち上

がりましたが、そのとき、なんということなく、お祖母さまの顔色をうかがいました。お

祖母さまの顔からは、一瞬血の気がなくなって、石のようにかたい表情になりました。わ

たしはそれを、いまでも不思議に思っています。

 大助兄さんは、お祖母さまの秘蔵っ子でした。大助兄さんのことといえば、お祖母さま

は眼がないのでした。それだけに、お祖母さまは大助兄さんの噂をするのが辛つらいらし

く、また万一のときの失望を、自らおもいはかって、大助兄さんは死んだもの、生きてか

えらぬものと、自分で自分にいいきかせ、その場合の処置までも、ひそかに考えていらっ

しゃるようなお祖母さまでした。しかし、それはあくまでも、大助兄さんが人一倍、可愛

いところから来ているのです。それだのに、あの時のお祖母さまの蒼あおざめた顔色とい

かつい表情はどうしたのでしょう。

 でも、お祖母さまの顔色はすぐよくなりました。そしてたとえ一刻でも、躊ちゆう躇ち

よしたことを悔むようにソワソワと立ち上がると、

「まあ、まあ、まあ、大助が還かえって来たんですって? そしてどこにいるの?」

「お玄関にいらっしゃいます。戦友のかたと御一緒に」

「どうしてこっちへ入って来ないの。そして梨枝はどうしました」

「はい、奥さまにも申し上げておきました。御隠居さま、早く出ておあげなさいませ」

「鶴代、おまえもおいで」

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