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黒猫亭事件--二(2)
日期:2023-11-27 11:14  点击:308

「ところで、死因は? むろん他殺でしょうね」

「もちろん他殺だよ。後頭部に、ものすごい一撃をくらっているんだ。見たまえ、あれが

兇器だ。さっき屍体といっしょに掘り出されたんだがね」

 司法主任は足下の蓆むしろのうえを指さした。さっきまで、屍体を寝かしてあったその

蓆のうえには、土にまみれた薪まき割わりが、一挺ちようほうり出してあった。それは郊

外住まいの家庭なら、どこにでもありそうな小さな薪割りで、いかさま、手頃の兇器とお

もわれた。村井刑事はその薪割りの、刃や柄についている黒いしみをみると、思わず顔を

しかめたが、ふと、そばを見ると、

「ところでこの髪の毛は──おや、これはかもじですね。これはどうしたんですか」

「やっぱり、おなじ穴から出て来たんだよ。被害者は添え毛をしていたんだね。ちかごろ

じゃ、女はみんな断髪だから、髪を結うとなると、そんなかもじが必要なんだね」

「すると、被害者は、かもじをつけた女ということになりますね。ほかに何か。……身み

許もとのわかるようなしろものは。……」

「なんにもない。完全に素っ裸なんだからね、わかっているのは二十五から三十までの女

──と、ただそれだけだ。しかし、なに、先月の終わりから今月のはじめへかけて、この近

辺で行く方のわからなくなった女、それを調べていけば、だいたい見当がつくだろう」

 司法主任はしごくあっさりそういったが、それがいかに困難な仕事であったか、後に

なってわかったのである。

「ときに、日兆という坊主ですがね、あいつはどうして、ここに屍体のあることを知って

いたんですか」

「さあ、それだよ。あの男とても興奮していて、まだ取り調べる状態になっていないんだ

が、昨夜、長谷川巡査にしゃべったところによると、だいたいこうらしい。二、三日ま

え、あの男が崖のうえを通りかかると、この庭で、何やらがさがさという音がする。何気

なく覗いてみると、犬が落ち葉をかきさばいているんだが、すると、ふいににょっきり、

人間の脚らしいものが落ち葉の下から覗いたというんだ。しかし、そのときはおりて来

て、たしかめてみる勇気はとてもなかった。ところがそれ以来というもの、そのことが気

になって、気になってたまらない。忘れようとすればするほど思い出す。しまいには、夢

にまで見るしまつなので、昨夜とうとう、意を決してたしかめに来た。──と、こういうん

だ。見たまえ、そこの崖ンところに、人の滑りおりた跡があるだろ。そこから、シャベル

をかついでやって来たんだね。妙な奴だよ。そんなに気になるのなら、交番へでもとどけ

て出ればよいものを、その勇気もなかったという。もっとも、果たしてそれがほんとうに

人間の脚かどうか、確信もなかったんだろうがね。それにしても変だよ。後であってみた

まえ。すこし精神に異常を来たしているんじゃないかと思う。それに……ええ、なに、何

かあったのかい」

 さっきから、崖下を掘っていた刑事のひとりが、妙な声をあげたので、司法主任は急い

でそのほうへとんでいった。村井刑事ものこのこと後からついていった。

「猫ですよ。ほら、御覧なさい、こんなところに黒猫の屍体が埋めてあるんです」

「黒猫──?」

 司法主任と村井刑事は、驚いたように、刑事の掘った穴のなかをのぞきこんだ。なるほ

ど落ち葉まじりの土の下から、まっくろなからす猫の屍体が半分のぞいている。

「猫が死んだので埋めたのですね。このまま埋めておきましょうか」

「いや、ついでのことに掘り出してみたまえ」

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