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黒猫亭事件--二(3)
日期:2023-11-27 11:15  点击:259

 司法主任の言葉に、わかい刑事が掘りすすめているところへ、

「猫ですって?」

 と、声をかけながら、横の木戸から、はいって来たのは長谷川巡査であった。穴のなか

を覗いてみて、

「ああ、クロですね」

「クロ? 君はこの猫を、知っているのかね」

「ええ、ここの看板猫ですよ。名前が『黒猫』だから、それにちなんで黒猫を飼っていた

んです。いつ、死んだのかな。──あっ」

 穴を取りまいていた人々は、いっせいにわっと叫んで顔色をかえた。周囲の土を取りの

けたわかい刑事が、シャベルのさきで、猫の屍体をすくいあげたとたん、だらっと首がぐ

らついて、いまにも胴からもげそうになったからである。なんとその猫は、ものの見事に

咽の喉どをかききられて、首の皮一枚で、胴とつながっているのだった。

「こいつはひどい」

 さすがのなれた村井刑事も、顔をしかめて、思わず眼をこすった。

「ふうむ」

 と、司法主任も太いうなりごえをあげると、

「とにかく、その屍体は大事にしておいてくれたまえ。今度の事件になにか関係があるの

かもしれん」

 そこから、長谷川巡査のほうをふりかえると、

「君はこの猫が、いつごろいなくなったか知らないかね」

 と、訊ねた。

「さあ。──気がつきませんでした。しかし、ああ、そうだ。つい、五、六日まえまでいま

したよ。まえの経営者がひっこしていって、ここが空き家同様になってからも、黒猫がう

ろうろしているのを見たことがあります」

「五、六日まえ?」

 司法主任は眼をみはって、

「馬鹿なことをいっちゃいかん。この猫を見たまえ。はっきりしたことはいえんが、死ん

でから、十日や二十日はたっているぜ」

「しかし、私はたしかにちかごろこの猫を見ましたがねえ。おかしいなア。なるほど、こ

れ、ずいぶん腐っておりますねえ」

 長谷川巡査は帽子をとって頭をかきながら、困ったように小首をかしげた。司法主任と

村井刑事は思わず顔を見合わせた。何かしら恐ろしいもの、変へん梃てこなかんじが、ふ

うっと二人の胸をかすめてとおった。一瞬、誰も口を利くものはなかったが、猫の屍体を

掘り出したわかい刑事が、ふいにシャベルを投げ出して、ぴょこんと、うしろへとびのい

たのはその時だった。

「ど、どうしたんだ。何かあったのか」

「む、む、むこうに黒猫が……」

「えっ?」

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