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黒猫亭事件--四(3)
日期:2023-11-27 11:25  点击:301

 お君の話は、村井刑事の推定とぴったりとあっている。殺人のあったのは二月二十八日

なのだ。臨時休業だから、加代子も珠江もむろん休みである、そして、お君も留守になっ

たそのあとで、あの恐ろしい事件が起こったのだ。

 そこで司法主任は鋒ほこ先さきをかえて、こんどは猫のことを切り出した。裏の崖下か

ら、黒猫の屍骸が掘り出されたことを話してきかせると、三人はびっくりしたように顔を

見合わせたが、やがて加代子がこんなことをいった。

「そういえば、思いあたることがあります。あの猫は去年からいるので、よく馴れていた

んです。それが、今月のはじめごろ、二、三日とてもおびえて、どうかすると床下へもぐ

りこんでしまうんです。それでマスターが三日ほど、首に紐をつけて、お店の柱にしばり

つけていたことがあります。そのとき私が、どうしてこうなんだろうと申しますと、な

に、サカリがついているからだよと、マスターが申しました」

「ええ、そういえば私もおもい出しましたわ」

 と、食糧不足そこのけの珠江もそのあとについて、

「なんだかその時分、クロが急に小さくなったような気がしたので、マスターにそのこと

をいったんです。するとマスターは笑いながら、サカリがついて、飯を食わないから瘦せ

たんだよ。恋には身も心もやつれるものさと、そんなことをいっていました。でも、いま

からかんがえると、マスター、噓をついていたのね。あの猫は、せんにいたクロじゃな

かったのね」

「そして、マスター、猫がかわっていることを、私たちにかくしていたのね」

 お君の言葉に、一瞬しいんとした沈黙が落ちて来た。何かしら、恐ろしいものが、女た

ちの心をふるわせた。唇まで冷たくなるかんじであった。

 さて、司法主任はそこでいよいよ、一番重大な問題へ触れることになったわけだが、か

れはそれをこういうふうに切り出したのであった。

「ところで、おまえたちも、今度の事件のことは知っているだろう。そこでおまえたちの

意見をききたいのだが、あの屍骸をいったい誰だと思う。私たちの考えでは、人殺しが

あったのは、多分二月二十八日のことだろうと思うんだが、その事も考えに入れて、なに

か心当たりはないかね」

 それをきくと三人の女は、いまさらのように、ものに怯おびえた眼を見交わして、しば

らく黙りこんでいたが、やがてお君がおずおずと口をひらいた。

「あの……ひょっとすると、それ……鮎子という人ではないでしょうか。鮎子さんという

のは……」

「ああ、その事なら私も知っている。マスターの情人だね。しかし、おまえどうしてあれ

を鮎子だと思うんだね」

「だって、マダム、そのひとのことをとても憎んでいましたし、それに……」

「それに……? 何かほかに理由があるのかね」

「ええ、あの、あたし、いま思い出したのですけれど……そうですわ。たしかに一日のこ

とですわ。お休みのつぎの日でしたから。……あたし朝早く、叔母のところからかえって

来ると、お店の掃除をしたんです。すると、隅のテーブルの下に……ほら、テーブルの下

に棚があって、物をおくようになってるでしょう。あの棚のなかから、女持ちの派手なパ

ラソルが出て来たんです、マダムのでもなく、加代ちゃんや、珠江さんのでもありません

から、誰が忘れていったんだろうとひらいてみたんですが、すぐはっと思いました。あた

し、そのパラソルに見憶えがあったんです。それ、たしかに鮎子という人のパラソルにち

がいありませんでした。あたし一度だけ、その人がマスターとつれだって、歩いているの

を見たことがあるんですけれど、たしかにそのとき、鮎子という人が持っていたパラソル

でした」

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