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黒猫亭事件--七(1)
日期:2023-11-27 11:33  点击:271

    七

 三月二十九日。──

 即ち、事件がすっかりひっくりかえってから、三日目の夕刻のことである。この事件

の、捜査本部になっている警察へ、妙な男がやって来た。その時署内の一室では、幹部級

のひとたちが集まって、捜査会議みたいなことをやっていたのだが、そこへ給仕が署長に

むけて、一枚の名刺を持って入って来た。署長が手にとってみると、それは警視庁にいる

先輩の名刺で、そのうえに、

「金田一耕助君を御紹介申し上げ候。この度の黒猫亭事件につき、同君の協力を得られれ

ば自他共に幸甚、何なに卒とぞよろしくお願い申し上げ候」

 と、万年筆の走りがきで認したためてあった。

 署長は眉をひそめて、

「この人、来ているのかい」

「はい、受け付けで待っていらっしゃいます」

「そう、じゃ、ともかくこっちへ通してもらおう」

 署長はもう一度名刺に眼を落としたが、それを司法主任のほうに押しやると、

「君、こういう男を知っているかい」

 司法主任も名刺の文句を読むと、不思議そうに、首を左右にふっただけで、それを村井

刑事に見せた。村井刑事も知らなかった。

「なにか今度の事件について、証言しようというんじゃありませんか」

「うん、そんな事かも知れん」

 それにしても紹介者が紹介者だから、署長もちょっと緊張した。それにその男に協力し

て、捜査にあたれというような意味の言葉があるので、いったいどういう人物だろうと、

村井刑事も好奇心をもって待っていたが、やがて、そこへ入って来た人物を見ると、かれ

は思わず大きく眼を瞠みはった。

「あっ、君は……」

 金田一耕助は例によって、よれよれの着物に袴はかまという姿で、ひょうひょうと部屋

へ入って来ると、誰にともなくペコリと頭をさげたが、村井刑事を見つけると、

「やあ、昨日は。……あっはっは」

 と、いたずらっぽい眼をして笑った。

「君、このひとを知っているのかい」

 署長は怪け訝げんそうに村井刑事をふりかえった。

「ええ、ちょっと……」

 刑事はふうっと熱いいきを鼻から吐くと、うさんくさい眼で金田一耕助の顔をにらん

だ。

 刑事が金田一耕助を知っているというのはこうである。

 事件がひっくりかえってから、捜査やり直しの必要をかんじた刑事は、もう一度関係者

を訪ねてまわったが、すると、いくさきざきで出会うのがこの男であった。はじめのうち

は別に気にもとめなかったが、度重なると刑事も怪しみ出した。そこで、最後にお君のと

ころで出会ったとき、いったいおまえは、何を求めているのだと訊ねてみた。すると、相

手はにこにこしながら、

「ぼくですか。ぼくは幽霊を探しているんです」

 そういい捨てると、あっけにとられた刑事を残して、ひょうひょうとして出ていった。

あとで刑事がお君に訊ねてみると、

「さあ、あたしもよく知りませんの。でも、自分じゃ、風間さん、御存じでしょう。マダ

ムのパトロンだった人、あの風間さんの識り合いだっていってましたわ」

 刑事はそれをきくとはっと胸をとどろかした。風間といえばこの事件での大立て者であ

る。悪くいくと、重大な容疑者になりかねない人物だった。刑事はにわかに疑いを濃くす

ると、とにかくあとをつけてみることにして、あわててお君の家をとび出した。

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