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第一章 ゴーゴンの三姉妹(3)
日期:2023-11-28 13:01  点击:290

「ほら、あの高いところに見えるのがわしの寺じゃ。それからその下に、大きな白壁の家

が見えるじゃろ。あれがこれから、おまえさんの訪ねていこうという鬼頭の本家じゃ」

 和尚は窓から指さして教えたが、ちょうどそのとき巡航船が、大きく崖を曲がったの

で、それらの寺や家々は、すぐ一同の視界からかくれてしまった。崖を曲がると、そこに

やや平へい坦たんな入り江があらわれ、ゆるやかな起伏のあちこちに、漁師の苫とま屋や

が散在しているのが見えた。入り江の奥から一艘そうの舟が、ゆったりとこちらのほうへ

漕こぎ寄せてきた。回かい漕そう店てんからの迎えの舟なのである。まえにもいったよう

に、このへんの島々は、平地というものがいたって少なく、わずか三十五トンの小蒸気船

でさえ横着けになることは困難なので、どの島にも小さな回漕店があり、それが沖の巡航

船まで客を送り迎えするのである。

 艀はしけはちょうどよい時刻に、沖の巡航船までたどりついた。

「和尚さんおかえりなさい。おや、竹蔵さん、おまえもいっしょか。吉本さん、この荷物

をな、白石の志村までとどけておくんさらんか。それからついでに美代ちゃんによろしく

いってな。はっはっは」

 三人が艀に乗ると、巡航船はすぐ方向転換をして、ポ、ポ、ポーと、蒸気の輪を空中に

吐き出しながら、なごやかな海面をきって遠ざかっていった。そのあおりをくらいながら

艀はゆっくり漕ぎもどしていく。

「和尚さん、そのお客さんはおまえさんのところへおいでンなったのかな」

「ああ、この方かな。この方は本鬼頭のお客さんじゃが、しばらく島に御ご逗とう留りゆ

うじゃ、心安くしてあげておくれ」

「さようで、それはまあ……ときに、和尚さん、吊つり鐘がねはどうなりました」

「吊り鐘か、吊り鐘はもらい下げることにしてきた。いずれ二、三日うちに、若いもんに

取りにいってもらうつもりじゃが、そのときにはよろしく頼みますぞ。なんしろ重いもん

じゃで、またひと騒ぎじゃ」

「それはお安い御用でござりますが、ほんにやっかいなことでござりますな。こんなこと

ならはじめから、出せといわなきゃあええに」

「まあ、そう言うたもんでもない。戦いくさに負けると、なにもかもちぐはぐじゃで」

「ほんに。……へえ、着きました」

 艀が桟さん橋ばしに着くころから、獄門島はすっかり雨雲におおわれて、はや、二つ三

つ大粒の雨が落ちてきた。

「和尚さん、あんたは運がええ。ちょうどじゃった。もうちっと遅れると、ずぶぬれにな

るところでござりました」

「ほんに、こりゃ本降りになりそうじゃな」

 桟橋へあがると、道はすぐ爪つま先さきあがりになっている。

「竹蔵」

「へえ」

「おまえすまんがひとあしさきに本家へ行ってな、和尚がお客人をつれていくと言うてき

てくれんか」

「へえ。ようござりますとも」

「ああ、それから村長と村瀬んとこへ寄って、本家へ来てくれるように言うておくれ、和

尚のことづけじゃと言うてな」

「へえへえ、承知いたしました」

 竹蔵が小走りに走っていくあとから、ふたりも足を急がせた。そのへんにいあわせた人

たちも、途中で出会った連中も、和尚を見るとみんなていねいに頭をさげてあいさつをす

る。それからそのあとで、不思議そうに金田一耕助のうしろ姿を見送った。

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