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第一章 ゴーゴンの三姉妹(4)
日期:2023-11-28 13:01  点击:258

 諸君がもし、こういう島へ入ったら、僧そう侶りよの勢力というものが、いかに強大な

ものであるかを知られ、おそらく一驚せずにはいられないだろう。板いた子こ一枚下は地

獄の漁師たちにとっては、信仰は絶対的なものであり、その信仰を支配する僧侶は、生せ

い殺さつ与よ奪だつの権を握っているも同然だった。こういう島では、村長さえ、お寺の

坊主に頭があがらなかった。小学校の校長のごときは、しばしば坊主の好こう悪おによっ

て、任免されるのであった。

 漁師村を出外れると、道は急にけわしくなる。その坂のつづら折れを登っていくと、そ

こに広大な屋敷があった。下から見ると、それはまるで小さな城郭のように見える。坂か

ら谷へかけて、花か崗こう岩がんの石いし垣がきが長く高く築きあげられ、そのうえに腰

板をはった白壁の長なが屋や塀べいがずらりとつづいている。塀のうちには幾いく棟むね

にもわかれた瓦かわら屋や根ねが、複雑な勾こう配ばいをつくってそびえていた。これが

獄門島の主権者、網元の鬼頭家なのである。

 和尚と金田一耕助の二人が、その長屋門に差しかかったとき、向こうからあたふたと駆

け着けてきた男があった。古い、色の変わった山やま高たか帽子をかぶって、二重回しの

袖そでをこうもりのようにひらひらさせながら、白しろ足た袋びをはいた足で、小石をけ

とばすように走ってくる。

「ああ、和尚、いま竹蔵の使いがあったものじゃで……」

「幸こう庵あんさん……話はなかへ入ってしよう」

 その男は、鉄縁の眼鏡をかけ、どじょうひげと山や羊ぎひげがだらしなくひんまがって

いる。大急ぎで着換えたと見え、二重回しの下は、紋もん付つきの羽は織おり袴はかまで

あるらしかった。年配は五十五、六、金田一耕助は和尚のいまのことばによって、これが

島の漢方医、村瀬幸庵であることを知っていた。

 トンネルのような長屋門を入っていくと、そこに改めて、広い、りっぱな玄関がある。

三人がその玄関へ入っていくと、足音をきいて奥から走り出た女が、大きな衝つい立たて

のまえに手をつかえたが、金田一耕助は、そのとたん、思わず大きく眼をみはった。この

不吉な名を持った島の、しかも古めかしい網元の屋敷に、こんな美しい人がいようとは、

夢にも思いもうけなかったからである。

 その人、年齢は二十二、三か、パーマをかけた髪をふっさりと肩に波打たせ、ゆるく仕

立てた焦茶色のスーツを着ている。ただそれだけで、装飾といえば白いブラウスの襟えり

にむすんだ、細いリボンの赤がひと筋。

「いらっしゃいませ」

 手をつかえて見上げた瞳ひとみに、深い愛あい嬌きようをたたえている。ふっくらとし

た頰ほおに、大きなえくぼのあるのも温かみのある感じだった。

「早苗さん、お客さんを御案内してきた。娘たちはうちにいるか」

「はい、奥に……」

「そうか、じゃあがろう。金田一さん、さあおあがり、幸庵さん、いまに村長も来るはず

じゃで、奥へ行いて待つことにしよう」

 和尚はまるで自分の家のように、先に立って式台のうえにあがった。娘はけげんそうに

耕助のほうを見たが、そこで耕助の視線に会うと、燃えるように頰を染めながら、和尚の

手から急いで道行きを受け取った。

「和尚、それにしてもいったいなんの用じゃ。大急ぎで本家へ来いというものじゃで、わ

けもわからず駆け着けてきたが、こちら、どういう御お人ひとじゃな」

「幸庵さん、あんた、竹蔵から聞きなさらなんだかな」

「いいや、なにも聞きゃせんがな。ただ、大急ぎで……」

「まあ、ええわな、奥へ行て話しよ。そうそう、早苗さん、さっき竹蔵から聞いたが、一

ひとしさん、達者じゃそうなな」

「はい、おかげさまで……」

「まあ、よかった。せめてそれで……ああ、村長が来たようじゃ」

 村長の荒木真ま喜き平へいという人は、漢方医の村瀬幸庵と同じ年輩だが、幸庵さんの

鶴つるのようにやせているのに反してこれはまた、背の低い、ずんぐりとした、太いとい

うより横に平たい感じの男で、これはまた大急ぎで着換えてきたとみえて、古ぼけたモー

ニングを着ている。

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