行业分类
第一章 ゴーゴンの三姉妹(5)
日期:2023-11-28 13:02  点击:296

「和尚さん、なにか急用じゃそうなが」

 さすが村長だけあって、ゆったりとした口の利ききかただった。

「うむ、あんたの来るのを待っていた。さあ奥へ行こう」

 村長が靴をぬいであがったとたん、突然、盆をひっくりかえしたように、さあッと滝の

ような雨が玄関先に落ちてきた。

「ほほう。こら、ひどい雨じゃ」

 漢方医の幸庵さんがどじょうひげをひねりながらつぶやいた。

 同じ雨は一同のとおっていく縁のそとにも降っていて、広い庭は太い氷柱を立てつらね

たように真っ白になっている。一同は間もなく、奥の十畳へとおされた。

「早苗さん、ここはええでな。娘たちになるべく早くこっちへ来るように言うておくれ。

どうせお化粧にひまがかかるじゃろが、はっはっは。さあみんなお座り。えろう暗いな。

幸庵さん、電気をひねったらどうじゃな」

 電気がついたとたん、耕助は床の間にかかっている二つの写真に眼をとめた。どちらも

軍服姿の若者だったが、ひとりはたしかに復員船の中で死んだ鬼頭千万太である。してみ

るともう一人のほうは、さっきから問題になっている分家の一という青年であろうか。面

おも差ざしがどっか早苗に似ているところを見ると、どうやら二人は兄妹らしい。

「さて……と」

 和尚は座がきまると、村長と漢方医の顔を見くらべながら、

「あんたがたに来てもろうたのはほかでもない。こちら金田一さんちゅうてな、千万さん

の戦友じゃげな」

 ほほうというように山羊ひげが、ぎろりと耕助を見直した。村長はだまって口をへの字

なりに結んでいる。

「それで、千万さんからこういう手紙をことづかって来なさったのじゃが……」

 村長と幸庵さんは、かわるがわる紹介状に眼をとおすと、

「で……? 千万さんは?」

「死んだそうじゃよ。復員船のなかで……」

 突然、幸庵さんはがっくり肩を落とした。山羊ひげがぶるぶるふるえた。村長はううん

とうなると、への字なりに結んだ口が、おそろしくひんまがった。このときの三人の緊迫

した沈黙を、耕助はその後長く忘れることができなかった。なにかしらそこには、骨を刺

すような無気味なおびえと恐れがあった。眼に見える鬼気が、潮のようにみなぎりわたる

感じであった。

 縁の外には相変わらず、滝のような雨が落ちている。……と、そのときだった。

「早苗ちゃん、お客さん、こっちゃ?」

 と、蓮はすっ葉ぱな声がとおくのほうから筒抜けにきこえてきたかと思うと、どこかの

障子をあける音がして、

「あら、こことちがうわ」

「向こうやわ。きっと、向こうの十畳よ」

「雪ゆき枝えちゃん、お客さんてだれやろ」

「鵜う飼かいさんやない?」

「あほらしい、鵜飼さんなら玄関から来やはらへんわ、あの方、裏からそっと会いにきて

くれやはるわ」

「だれに?」

「だれにて、わてにきまったるやないか」

「あほらし。あら、わてに会いにきてくれやはんねンし」

「姉ちゃん、待って、……わての帯、これでええのン」

「それでええのやないの。よう結べてあるわ」

「だって、わて、なんや気き色しよくが悪いわ。月つき代よ姉ちゃん、ちょっと結び直し

てえ」

「花ちゃん、それでええ言うたら。ぐずぐずしてると、お客さん、かえってしまやはる

わ。あら、雪枝ちゃん狡ずるいわ、狡いわ、あんたひとりで先へいくのン」

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/24 05:27
首页 刷新 顶部