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第一章 ゴーゴンの三姉妹(6)
日期:2023-11-28 13:02  点击:262

 がやがや、ばたばた、騒々しい声と足音がしだいにこっちへ近づいてくると、やがてそ

れはぴったりと、障子のかげにとまって、なにやらひそひそ話をしている。あんな人知ら

んなあとか、あんまりええ男じゃないとか、そんな声がとぎれとぎれにきこえて、くすく

す忍び笑いの声がするので、さすがの耕助も赤面せざるをえなかった。

 和尚は苦笑いしながら、

「これこれ、娘たち、なにをそこでごちゃごちゃ言うているんじゃ。早うこっちへ来て、

お客さんにあいさつせんかい」

「わっ、きこえたア」

 ひとしきりけらけらと笑いころげると、やがてひとりひとり取りすまして、座敷のなか

へ入ってきたのは、舞まい妓このような振ふり袖そでに、たかだかと帯をしめあげた三人

の娘。敷居ぎわにべったり座って頭をさげたとき、髪にさした花かんざしが、幻のように

ヒラヒラゆれた。

 金田一耕助はそのとたん、いきをのんで思わず大きく眼をみはった。

「金田一さん。これが千万太の妹でな。月代、雪枝、花子──十八をかしらに三人年子じゃ

て」

 この美しい、しかしどっか尋常でない、三輪の狂い咲きを眼のまえに見たとき、金田一

耕助は、ゾーッと冷たい戦せん慄りつが、背筋をつっ走るのを禁ずることができなかっ

た。彼はいまはじめて、自分をここへつれてきた使命の、容易ならぬことを知ったのであ

る。

 むんむんするような復員船の熱気のなかで、腐った魚のように死んでいった鬼頭千万

太。その千万太が、最後の呼吸とたたかいながら、あえぎあえぎ、くりかえしくりかえし

言い残していったことば……。

「死にたくない。おれは……おれは……死にたくない。……おれがかえってやらないと、

三人の妹たちが殺される……だが……だが……おれはもうだめだ。金田一君、おれの代わ

りに……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ。……いつか渡した紹介状……金田一君、お

れはいままで黙っていたが、ずっとまえから、きみがだれだか知っていた……本陣殺人事

件……おれは新聞で読んでいた……獄門島……行ってくれ、おれの代わりに……三人の

妹……おお、いとこが、……おれのいとこが……」

 鬼頭千万太はそこまで言って、がっくり息が絶えてしまったのである。

 臭い、煮えくりかえるような復員船の熱気のなかで……

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