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太閤様の御臨終(4)
日期:2023-11-28 13:05  点击:237

 あの三人の変なことには、耕助もすでに気がついている。兄の死でさえがかれらにとっ

ては、自分たちの髪の格好、帯の結びかたほども気にならないらしかった。和尚がまじめ

な話をしていても、うつむいてくすくす笑ったり、袖そでをひっ張ったり、ひじで突っつ

いたり、それで三人が三人ともきれいな娘であるだけに、いっそう不健全で病的で、見て

いるほうでも気持ちが悪くなるのだった。

 これはたいへんな娘たちである。と、耕助は思った。ゴーゴンの三姉妹であると耕助は

考えた。ゴーゴンとはギリシャ神話に出てくる怪物である。もとは美しい処女であった

が、ミネルバと美をきそったがために、姉妹三人頭髪ことごとく蛇へびとなり、鷲わしの

羽と真しん鍮ちゆうの爪つめをもった怪物に化せられた。鬼頭家の三姉妹には、どこかそ

ういう気味の悪い妖よう怪かい味みが感じられるのだった。

「ところで、あの早苗さんというのは、千万太君の従妹いとこかい」

「へえ、そうです。あの人と、あの人の兄さんに一さんというのがありますがね。これは

ビルマへ行ったそうですが、幸い無事で、近くかえってくるそうですよ」

「ああその話ならぼくもきいた。戦友が知らせに来てくれたんだそうだね。ところで、あ

の人たちには両親はないのかい」

「早苗さんの親御さん……?」

 それはうわさをするさえ滑こつ稽けいであると、いわぬばかりの親方のくちぶりだっ

た。

「早苗さんの両親というのは、ずっと先に亡くなったらしい。あっしがここへ来てから、

もう十二、三年になりますが、その時分もう、一さんも早苗さんも、本家のほうへ引きと

られていましたからね。お父つぁんは、なんでも、海で死んだんだという話です」

「ふうむ、するとあの家にゃ、いまだれだれがいるんだい。気のちがっている御主人に、

三人の娘と早苗さんと……それから五十くらいの婆さんがいるが、あれはだれだい」

「ああ、お勝かつつぁんですか。ありゃ去年亡くなった隠居の茶飲み友だち、まあ、ひら

たくいえば妾めかけですね。いまでこそああいうふうに見っともなくなっちまいました

が、あっしがここへ来たころにゃ、三十五、六の、ちょっと渋しぶ皮かわのむけた年とし

増までしたね」

「なるほど、するとあの家にいまいるのは、気の狂った御主人と、三人の娘さんと早苗さ

ん、それにお勝さん……とそのお勝さんがみんなのめんどう見てるわけだね」

「なに、あのお勝つぁんが、ひとのめんどう見れるもんですか。ありゃあなた、気がいい

ばかりでなんの役にも立ちゃしません。そこをまた見こんで、隠居が手をつけたんでさ

あ。しっかりものの妾をもつと、あとはいざこざが残りやすい。嘉右衛門さんという人

は、そんなことにもなかなか抜け目のない人でしたよ」

「ふうむ、するとあのお屋敷は、いったいだれがきりもりしているんだい」

「早苗さんですよ」

「早苗さん? だってきみ、あの人はまだ……」

「だから、みんな感心してるンでさ。偉いもんですよ。あの人は……年齢は二十二、三で

しょうが、なかなかどうして、気性のしっかりした娘さんでね。荒くれ男を屁へとも思わ

ねえ。もっとも仕事のほうは潮つくりの竹蔵さんがついていますがね」

「竹蔵さんてのは、こっちへ来る船でいっしょだったが、潮つくりというのはなんだね」

 潮つくりというのは、すなわち潮の加減を見る役で、兵隊でいえば連隊長みたいなもの

であると、親方の清公は説明した。

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