行业分类
臈ろうたき人(1)
日期:2023-11-28 13:27  点击:279

 臈ろうたき人

 千光寺は山の中腹にある。いや、中腹というよりは、八合目にあたっている。千光寺を

抱く山は、寺の背後より急に険しくなって、そこから東にある、島いちばんの高峰、摺す

り鉢ばち山やまにつづいている。つまり千光寺は島の西側にあることになる。千光寺の境

けい内だいに立つと、獄門島の部落を、ほぼ完全に俯ふ瞰かんすることができる。つまり

獄門島の全部落は、島の西側に集結していることになる。

 いったい、こういう離れ島では、昔からつねにそなえなければならぬものがある。それ

は海賊の来襲である。だから、どの島へ行っても、いざといえばたちどころに集結できる

ように、部落は小ぢんまりと、ひとところに、背すりあわせて集まっているのである。獄

門島もその例に漏もれない。

 千光寺の石段のうえに立って見ると、まず眼にうつるのは、右側に見える本鬼頭の屋敷

である。うえから見るとこの屋敷は、甍いらかの迷路のように見える。つぎからつぎへと

つづく瓦かわらの波は、内部の複雑な、非生産的な構造を思わせるに十分である。それで

いて、どっしりと重量感をもっているのはさすがだった。

「なにしろ死んだ嘉右衛門さんというのが、普ふ請しん道楽だったからな。つぎからつぎ

へと建てまして、とうとう、あんなややこしい家にしてしもうた」

 了然和尚があるときそういって、いちいち指して教えてくれた。

「あれが母おも屋や、あれが離れ家や、あれが部屋、あれが土蔵、あれが魚蔵、あれが網

蔵。あれが……」

 それらの建物は、屋敷の背後にある谷の勾こう配ばいにしたがって、幾重にもかさなり

合っている。ちょっと累々層々たる感じである。

「和尚さん、左の奥のほうの、いちだん高いところにある、あのこけらぶきの家。──あれ

はなんですか」

「うん、あれか、あれは、祈き禱とう所しよ」

「祈禱所? 祈禱所たあなんです」

 耕助が尋ねると、

「祈禱所は祈禱所だあね。だが、そのことはいつかまた話そう」

 耕助はならんで立っている和尚の顔をふりかえった。苦いものでも吐き出すような和尚

の口ぶりに、ちょっと、どぎもを抜かれたからである。

 この祈禱所は、ほかの建物からはるかはなれた屋敷のすみの、いちだん高いところに、

松の大木におおわれてたっている。屋根のこけの、風雨にうたれた黒さから見て、もうか

なり古いものらしい。耕助はきっと、屋敷稲いな荷りといったふうなものであろうと思っ

た。

 さて本鬼頭と谷ひとつへだてた左側にはこれまた谷を背にして、分鬼頭の屋敷がある。

うえから見てもこの家は、本鬼頭にくらべるとだいぶ落ちる。重量感においてもひどく見

劣りがするし、累々層々たる感じからいえば、足下にもよれない。谷をへだててこの二軒

が、背中合わせに立っているところは、うえから見ても、なんとなく暗示的だった。

「木き曾そ殿と背中あわせの寒さかなじゃな」

 あるとき和尚は、この二軒を指さしてこんなことをいった。この和尚はときどき、突拍

子もないときに、突拍子もない俳句を口ずさむくせがある。

 さて、まえにもいったとおり、両鬼頭のまえを走っている二つの道は、やがて谷の奥で

ひとつに合している。そしてそこから改めてひとつの道が、つづら折れとなって、山の高

所へむかっている。このつづら折れを下から幾曲がりかしていくと、何度目かの折れ目

に、小さいお堂がひとつ建っている。狐きつね格ごう子しをのぞいてみると、中は二畳ぐ

らいの板敷きになっていて、その奥の白木の壇に、唐から子このような感じのする、えた

いの知れぬ像がまつってある。格子のうえにかかげた額を見ると、地じ神がみ様。──

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/24 03:21
首页 刷新 顶部