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第二章 にしき蛇のように(1)
日期:2023-11-28 13:38  点击:222

第二章 にしき蛇のように

 ちかごろでは、田舎いなかでもお通つ夜やを文字どおりやるところは少ない。たいていは九時か十時、おそくとも十一時にはおひらきになる。本鬼頭のお通夜も、十時過ぎにはおひらきになったが、そのころにいたるも、花子の姿が見えないので、一同の不安はしだいに大きくなった。

「お勝さん、おまえさんが三人のお召し換えを手伝ったんだろ。そのときに花ちゃん、まだ家にいたんだね」

 村長の荒木氏は、なにか心が騒ぐ風ふ情ぜいだった。

「ええ、ええ、いましたとも、花ちゃんをいちばんに着換えさせて、それから月代ちゃんや雪枝ちゃんのお手伝いをしたんです。ねえ、そうだったねえ」

 月代と雪枝はこっくりとうなずいた。このふたりは片時もじっとしていない。袂たもとをいじったり、衣え紋もんをつくろったり、かんざしを気にしたり、そして、しょっちゅう肘ひじでつつきあっては、うつむいてくすくすわらっている。お勝のことばに顔をあげてうなずくと、すぐまた、首をすくめてくすくすわらった。

「月代や雪枝は、それから花子がどこへ行ったか知らんのか」

 和尚はにがにがしげに眉まゆをひそめている。

「わて? 知らんわ。あの娘こ、いつもちょこちょこしてんのやもん。わて、きらいやわ」

「ほんまにあの娘、うるさいわ」

「お勝さん、それ何時ごろのことだな」

「さあ、夕方のことですが、──」

 と、お勝つぁんはおどおどと首をかしげて、

「そうそう、わたしが着換えを手伝うているとき、早苗さんが向こうのお部屋で、ラジオをかけたが、まだ、ドードー・ニュースやったので、すぐスイッチを切ったようです」

「すると六時十五分ごろのことですね」

 耕助がそばから口を出した。

「そのときには、花ちゃんはまだいっしょにいたのかね」 村長の荒木氏は、いよいよ不安が昂こうじてくる模様である。

「さあ、なんでもその時分までいたように思いますが……」

 はっきりわからないというのが、ほんとうのところらしかった。

「早苗さん、あんたは覚えておらんかな」

「あたし?」

 黒地の、あっさりとしたツー・ピースを着た早苗は、月代や雪枝とはよい対照である。大きな、つぶらの眼をパッチリとひらくと、下しもぶくれの顔を少しななめにかしげて──そういうふうに上眼を使うと、まつげが驚くほど長い。しぜんにゆるくカールした髪が、肩のあたりに波打っているのもかわいかった。

「よく覚えていませんけど。──ええ、おばさんが向こうのお部屋で、みんなの着換えを手伝っていらしたわ。そのときはたしかに花ちゃんもいっしょだったわ。それからあたし、ラジオのことが気になったもんだから、茶の間へ行ってスイッチを入れたんです。そしたらまだ、労働ニュースがはじまったばかりのところだったので、スイッチを切ってかえってきたら、──そうそう、そのときには花ちゃん、たしかに見えませんでした」

 してみると、花子が見えなくなったのは、六時十五分前後のことになる。いまはもう十時半、一同が心配するのも無理はなかった。

「とにかく、ここで評議をしてたってはじまらん。ひとつ心当たりを探してみたらどうでござります」

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