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てにをはの問題(2)
日期:2023-11-28 13:49  点击:322

「ああ、ふむ、それじゃて、じゃがな竹蔵、そのことはまだ本家にいうな。女ばかりじゃで、おびえるとかわいそうじゃ」

「さようでござります。それじゃひとはしり行て参じまする」

「ああ、ちょっと待て。……ついでに村長にも知らせてな、ここへ来てもろうておくれ。ときに金田一さんや、駐在所はどうしたもんじゃろ。知らせいでもよいかな」

「清水さんなら留守ですがね」「留守……?」

「ええ笠岡の本署から召集がきたといって、ひる過ぎモーター・ボートに乗って出かけていきましたぜ。しかし、竹蔵さん」

「へえ」

「念のために、駐在所へもよってみてください。もし清水さんがかえっていたら、こっちへ来てくれるように」

「へえ承知しました。それじゃ和尚さん、行て参じます」

 風はますます吹きつのってくる。裏山の赤松林が、物すごい音を立てて騒いでいる。その風のなかを竹蔵が、弥や次じ郎ろ兵べ衛えのように紋もん付つきの大手をひろげて、あたふたととび出していくと間もなく、ポツリポツリと大粒の雨が落ちてきた。とうとう風が雨を持ってきたのである。「畜生ッ!」

 耕助は暗い空を仰いで、いまいましそうに舌打ちした。

「金田一さん、どうかしたかな」

「雨が……」

「雨……? ああ、ふむ、本降りになりそうじゃな。じゃが、雨が降ると……?」

「朝まで降らなければいいと思っていたんです。降ると足跡がめちゃめちゃになってしまう」

「足跡……?」

 和尚は急に気がついたように息をはずませた。

「すっかり忘れていた。金田一さん、ちょっとこっちへ来てみておくれ」

「はあなにか……」

「あんたに見てもらいたいものがあるで。了沢や、おまえもいっしょにおいで」

「和尚さん、この死し骸がいは……このままにしておいてもよろしゅうござりますか」

 さっきから、石のように押しだまっていた了沢が、そのときはじめて、おずおずと口をひらいた。

「ああ、それ……金田一さん、どうしたもんじゃろ。おろしてもええかな」

「さあ。もうしばらくそのままにしておきましょう。清水さんがかえっているかもしれませんから」

「ああ、ふむ、そうじゃな。了沢や、花子はそのままにしておいて、おまえもこっちへ来てごらん」

 おそろしい梅の古木のそばをはなれて、三人が玄関のまえまで来たときだった。満まんを持じした弦を、切ってはなしたように、一時にどうっと太い雨が落ちてきた。

「畜生ッ!」

 耕助はいまいましそうに空を仰いだ。

「ああ、ふむ、あいにくの雨じゃな。ところで金田一さん」

 和尚は玄関の廂ひさしの中へ駆けこみながら、「さっきわしは、あんたがたより、ひとあしさきにかえってきたな。そのときわしはこの玄関から入ろうとしたのじゃが、ここはなかから戸締まりがしてあることを思い出した。そこで……こっちへおいで。足もとが危ないで、気をつけな」

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