軒づたいに横へまわると、うしろの崖がけとすれすれに、勝手口の戸があった。戸は少しあいていて、中は真っ暗だった。
「玄関が締まっていたで、わしはこっちへまわってきた。ところが、……ほら、ごらん」
和尚は提灯をさし出した。
「なんですか」
「南ナン京キン錠じようがねじ切ってあろうがな」
耕助と了沢のふたりは、思わずぎょっといきをのんだ。ねじ切られた南京錠は、勝手口の柱にぶちこんだ、輪わ釘くぎに半分ひっかかってぶらさがっている。
「了沢や、ここの戸締まりをしたのはおまえじゃったな。そのときまさかこんなことは……」
「和尚さん、そんなことはありません。わたしはちゃんと戸を締めて、錠をおろしていきました」
「和尚さん、そしてこの戸をひらいたのは……?」
「それはわしじゃ。錠をひらこうとして鍵かぎを取り出すと、このとおりねじ切られていたで、びっくりして戸をひらいてみた。すると……ほら、あれを見い」
半分ひらいた戸のすきから、和尚は提灯をつっこんだが、見ると、あがり口のたたきのうえに大きな泥靴の跡がべったりとついている。
「和尚さん、ど、泥棒……?」 了沢はまたいきをのんだ。
「そうじゃろ。見い、あの足跡はまだ新しい。そこでわしはびっくりして、おまえたちを呼びに行ったのじゃ」
「ああ、それであなたはすぐとび出してこられたんですね」
「ああ、ふむ、それであんたがたを呼びに行ったんじゃが、なんとなくあたりが気になるものじゃで、念のため、提灯であちこち探しているうちに、ふと眼についたのが……」
と、和尚はいきをのんで、
「花子の死体じゃ」
「和尚さん、それじゃあなたはまだ、中へ入ってみられないんですね」「もちろん、そんなひまはありゃせんがな」
「それじゃ、これから中へ入って調べてみましょう」
「ああ、ふむ、了沢、おまえさきに入って電気をおつけ」
「和尚さん」
「なんじゃ、どうした、了沢、ほ、ほ、ほ、おまえふるえているのか。臆おく病びようなやつじゃな」
「だって、和尚さん、泥棒、まだ中にいるんじゃありませんか」
「了沢さん、大丈夫ですよ。ほら足跡は、いったん入って、また外へ出ている。しかし、私がさきへ入りましょう」
「いえ、私が入ります」
了沢はさきへ入って、台所の電気をつけたが、そのとたん、あっというような叫びをあげた。
「了沢や、どうかしたかな」
「和尚さん、泥棒め、土足のままであがったとみえて、ほら、こんなに泥靴の跡がついております」
「わっ、えらいことをしおった。そして、なにかなくなっているものがあるかな」
「いま調べているところでございます」
「和尚さん、その提灯を貸してください」