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てにをはの問題(5)
日期:2023-11-28 13:54  点击:240

「お、和尚さん、ど、ど、どうかしましたか」

 了然さんの息遣いがあまりはげしかったので、耕助も驚いて思わずどもった。

「ああ、うむ、いや、しかし、そ、そんな……そんな馬鹿なことが……」

「和尚さん、ど、どうしたんです。あそこにだれか、煙草を吸う人があるんですか」

「ああ、ふむ、わしは一度、早苗という娘が煙草を巻いているのを見たことがある。そういえばそんなふうな、ごちゃごちゃと字を書いてある紙じゃった。そのときわしが、だれが吸うのかと尋ねたら、……」

「だれが吸うのかと尋ねたら……?」

「早苗のいうのに、伯お父じさまが……」

 耕助は思わずあっと息をのんだ。懐紙を持った手がはげしくふるえた。

「お、和尚さん、早苗さんの伯父さんというのは、あの座敷牢にいるという……」「そうじゃ、気ちがいじゃ。そのときわしはこう言うたのを覚えている。早苗や、気ちがいさんに煙草をあてがうのはよいが、マッチを渡してはならんぞとな。すると早苗が、はいそれはよう気をつけておりますと……」

 と、そのとたん、すさまじい音を立てて、天井裏を鼠ねずみが走ったので、和尚も耕助も了沢も、われにもなく、ぎょっとばかりとびあがった。風はますます吹きつのって、横なぐりに降る土ど砂しや降ぶりの中に、花子の体がずぶぬれになって、ゆっさゆっさとゆれている。地面に垂れさがった黒髪のさきから、滝のように雨が流れている。了沢はふるえながら、

「南無……」

 と、歯の根をガチガチ鳴らした。

「和尚さん、和尚さん、するとあなたは、今夜ここへ来たのは、座敷牢にいる、本家の御主人だとおっしゃるのですか」

「ば、馬鹿な! わしはなにもそんなことはいやあせん。あんたが煙草のことをきくものだから……」

 耕助はそういう和尚の顔をきっと見ながら、

「和尚さん、しかしあなたはさっき、妙なことをおっしゃいましたね」

「わしが……? いつ……?」

「さっき、……花子さんの死体を見つけたとき……」

「花子の死体を見つけたとき、あのとき、……? あのとき、わしがなにかいったかな」

「はい、おっしゃいました。はっきりはわかりませんでしたが、たしか、気ちがいじゃが仕方がない……と、そんなふうにききとれましたよ」

「気ちがいじゃが仕方がない……? わしがそんなことをいったかな」

「ええ、たしかにおっしゃいましたよ、私は変に思ったんです。気ちがいとは、本家の御主人のことだろうが、あの人がどうしたというんだろうと思ったんです。和尚さん、あなたはなにかこんどの事件に、本家の御主人が関係しているとでも……」

「気ちがいじゃが仕方がない。わしがそんなこと言うたかな。気ちがいじゃが仕方がない……気ちがいじゃが仕方がない……」

 不意に和尚は、くゎっと大きく眼をひらいた。耕助の顔をまともから、にらみすえるように、はげしくにらんだ。大きな肩が波打って、くちびるのはしがものすさまじく痙けい攣れんした。と、思うとつぎの瞬間、和尚は大きな両手をひらいて、ひしとばかり顔をおおうと、二、三歩うしろへよろめくようにあとずさりした。

「和尚さん!」

 耕助も思わずいきをはずませる。

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