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今晩のプログラム(1)_獄門島(狱门岛)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

  今晩のプログラム

 土砂降りの中を、傘かさをじょごにして駆けつけてきたのは、幸庵さんに村長の荒木真喜平氏だった。竹蔵もうちへ寄ってきたとみえて、紋付きをふだん着に着換えて駆けつけてきた。三人ともずぶぬれになって、幸庵さんのどじょうひげも、だらしなくしおたれていた。

 山門のところで和尚に会うと、

「和尚さん!」

 と、幸庵さんは頰ほおの筋肉をピクピクふるわせたが、それきりあとはことばが出なくて、大きなのど仏がぐりぐり動いた。村長の荒木さんはくちびるをかたく結んだまま、ただ、黙って和尚の顔をながめていた。一瞬鼎かなえに立った三人のあいだには、無気味な沈黙がながれたが、やがて、和尚は身をひらくようにして、

「二人とも御苦労じゃった。では、ひとつ、花子を、見てやっておくれ」

 あらましのことは竹蔵から聞いてきたとみえて、和尚が身をひらくとすぐに二人は梅の木のほうへ駆けつけた。幸庵さんはよたよたと、村長さんはしっかりしたあしどりで。──了然さんがそのあとからついていこうとすると、

「和尚さん」

 と、うしろから竹蔵が呼びとめた。

「おお、竹蔵、御苦労じゃったな。本家の様子はどうじゃった」

「へえ、月代さんや雪枝さんはもう寝ていましたが、早苗さんはひどく心配そうな顔で──」

「あの子は利口だから、だいたい、察しがついたのじゃないかな」

「そのようでございます。いっしょに来るというのを無理にとめて、お勝さんによく頼んできました」

「竹蔵さん、清水さんはどうでした」

 そばから、耕助がことばをはさんだ。

「へえ、清水さんはまだおかえりじゃないそうで」

「そうですか。御苦労さまでした」

 梅の木のそばでは、幸庵さんと村長さんが、凍りついたようにしいんと立っていた。医者のくせに幸庵さんはひっきりなしにがたがたふるえているが、村長の荒木さんは、表情のない顔で、ただ、まじまじと死体をながめている。和尚がそばへ行くと、村長はふりかえって、

「和尚、いつまでこんなところに、ぶらさげとくわけにはいきますまい。もうそろそろ、おろしたらどうじゃな」

「ああ、ふむ、金田一さんがな、清水さんに見てもらうまでは、このままにしといたほうがええと言われるで、いままで控えていたのじゃが、朝までほっとくわけにもいくまい。あんたがた、あんたと幸庵さんに見てもろとけばもうええじゃろ。なあ、金田一さん、もうおろしてもええじゃろな」

「いいでしょう。私も手伝いましょう」

「いや、竹蔵、おまえやっておくれ」

「へえ、承知しました。ところで、どこへかつぎこみましょうか」「そうじゃな、取りあえず本堂のほうへはこんでもらおうか。了沢や、蓆むしろがどっかにあったろ。本堂のほうへ敷いておけ」

 竹蔵と耕助の手で、死体はすぐおろされた。本堂のほうへかつぎこむと、

「さあ、幸庵さん、これからはおまえの役目だ。ひとつよくみてやっておくれ」

 幸庵さんもさすがに医者であった。梅の木からおろされて、本堂の蓆にねかされた死体を見ると、もうふるえてはいなかった。亀かめの甲より年の功の、慣れた手つきで死体をあらためていたが、

「幸庵さん、死因は──?」

 と、そばから耕助が尋ねると、

「絞殺されたのじゃな。ほら、ごらん、のどのところに、手ぬぐいでしめたような跡がある。しかし……」 と、幸庵さんは死体を少し起こしてみて、

「そのまえに、なにかでひどく頭をぶん殴られたんじゃな。うしろあたまんところに、大きな裂傷ができているで。血はほんのちょっぴりしか出ていんが、これで気をうしのうたのじゃな」

「そうすると、ぶん殴られて、気をうしのうているところを、絞殺されたということになりますか」

 耕助が念をおすように尋ねた。

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