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待てば来る来る(6)
日期:2023-11-30 16:15  点击:295

「ええ、まいりました。実は、そのことについて、誤解があってはならぬと思ったもので

すから、それで、そのことをいいに来たのです。ぼく、そういう手紙を出しておいたもの

だから、きっと、月代さんが来てくれるものと思って、ここへ来て待っていたんです。と

ころが、半時間待っても、一時間待っても、月代さんが来ないものだから、それで、ぼ

く、あきらめてかえったのです。ぼくの話というのはそれだけのことなんですが」

「ああ、ふむ、なるほど。それでおまえさん、そのあいだに、どこかで花子を見かけやあ

しなかったかな」

「いいえ、一度も。ぼくは花ちゃんがここへ来るなんてこと、夢にも思いませんでした」

「いったい、おまえさんは何時ごろここへ来たんじゃな」

「何時ごろか、時間のことはよく覚えておりませんが、ぼくが家を出たのは、こちら──」

 と、耕助のほうをふりかえって、

「金田一さんが分鬼頭を出てからすぐあとのことでした。このつづら折れの下で、金田一

さんが、うえからおりてこられた和尚さんたちに出会って、本鬼頭のほうへ行かれた。そ

のうしろ姿が見えなくなってから、ぼくはつづら折れをのぼってきたのです。そして、ど

のくらいここにいたか、正確なことはわかりませんが、あきらめて家へかえると間もな

く、八時が鳴りましたから、たぶん七時半ごろまで、待っていたのだろうと思います」

「ふうむ、そして、そのあいだ、花子のすがたを見なんだとすると、あの娘はいったい、

どこにいたのじゃろうな」

 和尚はあごをなでながら、一同の顔を見渡した。だれも口を利こうとする者のないなか

に、お志保さんがまた少しひざを乗り出して、

「どっちにしても、それは鵜飼さんの知ったことじゃありませんわ。ねえ、このひと、花

子ちゃんを殺さねばならぬ理由は少しもありませんし、それに第一、そんな度胸のあるひ

とじゃありませんものね」

 さっきから、和尚とお志保さんの勝負をおもしろそうに見ていた耕助が、そのときはじ

めて口をひらいた。

「ちょっと鵜飼さんにお尋ねしますが、あなたはここで月代さんを待っているあいだに、

煙草を吸やあしませんでしたか」

「煙草? いいえ、ぼくは煙草を吸いません」

「ゆうべ、あなたは和服でしたか。洋服でしたか」

「和服でした。ぼく、ろくな洋服は持っていないんです」

「でも、洋服は持ってることは持ってるんですね。すると靴なども──軍靴とちがいます

か」

「ええ兵隊靴です」

「清水さん、念のためにあとでその靴を見せていただくといいですね。たぶん、そうじゃ

ないと思いますが、──ところで、鵜飼さん、最後にもうひとつお尋ねがあるんですが、月

代さんへ出した手紙ですがね、あれはどういうふうにして渡されたのですか。どうしてそ

の手紙が花ちゃんの手に入ったのでしょうね」

「それは──」

 鵜飼はまたちょっとためらったが、お志保さんの視線にうながされて少し赧あかくなり

ながら、

「ぼくたち、月代さんとぼくが手紙をやりとりするときは、いつも愛あい染ぜんかつらの

幹に入れておくんです。その幹に、小さいうつろがありまして、そこへ手紙を入れておく

ことにしているんです」

「愛染かつら?」

 一同は思わず眼をみはった。耕助はうれしそうにがりがり頭をかきまわしながら、

「それはまた、ロマンチックなことですね。しかし、愛染かつらなんて木が実際にあるん

ですか」

 鵜飼はまたちょっと赧くなった。

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