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冑かぶとの下のきりぎりす(1)
日期:2023-11-30 16:16  点击:230

  冑かぶとの下のきりぎりす

 床屋の清公はいつかこんなことをいったことがある。

「あっしゃこう思うンですがね。もともとこの島の人間たちゃア、海賊の子孫と島流しに

会った罪人とがなれあってできたもンだというんですが、あっしゃそのうえにもうひと

つ、平家のおちゅうどの血がまじってやアしねえかと思うンです。それというのがあのお

志保だ。ありゃアどう見たって中国筋の人間じゃねえが、ああいう化け物がひょいひょい

現われるンだから、やっぱり先祖の血はあらそわれませんや。ありゃアきっと、平家の上

じよう ろうか公きん達だちの血が、何百年かたって、ひょいと現われやアがったにちがい

ありませんぜ。早苗さんだって、そうだ。あのひとは、ま、お志保にくらべりゃア、だい

ぶこのへんの人間になってますが、それにしても、若いに似合わず気き位ぐらいのたかい

ところや、おっそろしく気の強いところが尋常じゃねえ。そういっちゃ悪いが、早苗さん

だってやっぱり化け物のひとりですぜ」

 清公は方々渡りあるいているだけあってなかなかの物知りである。遺伝学の法則をちゃ

んと心得ているからえらい。

 金田一耕助は興味をもってこの議論を傾聴したものだが、こんにちになってみると、ま

すます清公に敬意を表せざるをえない。

 まったく、花子の死体がかつぎこまれたときの、早苗の態度こそあっぱれであった。む

ろん彼女は蒼あおざめていた。瞳ひとみもいくらかうわずっていたようである。しかし、

けっして取り乱してはいなかった。かえって、年がいもなくおろおろしている勝野さんを

たしなめたり、手ばなしで泣きわめき、おののいている月代や雪枝をなだめたりすかした

りしながら、いちいち竹蔵に指図している彼女を見ると、なるほどと耕助は清公のことば

を思い出さずにはいられなかった。まったくそのときの早苗の態度振る舞いには討ち死に

した一族をむかえるサムライのけなげさがあった。いまや彼女は繊せん手しゆをもって落

日の孤城をささえているのである。

「で……?」

 やがて花子のなきがらを仏間におさめた一同が、座敷にまるく集まると、早苗は物問い

たげな眼できっと和尚の顔を見た。その瞳には無限の恨うらみと憤りがこもっている。和

尚はぎごちなくしわぶきすると、

「いや、どうも……ひょんなことができてしもうて、おまえさんにも申しわけがない」

 と、大きな手のひらでつるりと顔をなでた。村長の荒木さんがそれにつづいて、重っく

るしく口をひらいた。

「こういうことができてみれば、千万さんの葬式もまた延ばさねばなるまいな」

 早苗はくるりとそのほうへ振り向くと、きっと村長の顔を見つめながら、

「いいえ、そんなことどうでもいいのです。それよりも、だれがこんなことをしたんで

す。だれが──だれが花ちゃんにこんなむごいことをしたんです」

 だれもそれにこたえる者はなかった。シーンとした沈黙が座敷のなかにおちこんでき

た。妙にぎごちない、底意のある沈黙で、耕助にはだれもかれもが、胸にいちもつ抱いて

いるように感じられてならなかった。やがて医者の幸庵さんが、山や羊ぎひげをふるわせ

ながら、

「それがわかれば世話はないが……」

 と、がっくりとやせた肩を落とした。

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