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冑かぶとの下のきりぎりす(5)
日期:2023-11-30 16:18  点击:283

 与三松は寝床のうえに座ったまま、ぼんやりと和尚と早苗の顔を見くらべている。千万

太の年齢からいってもその人は五十の坂を相当越えていなければならぬはずだのに、見た

ところは四十そこそこである。運動不足のせいかぶくぶく太って、ネルの寝間着を着た肩

など、まるまると盛りあがっている。あぐらをかいた脚なども、脚かつ気けのようにむく

んでいた。それに、生気のない肌はだの色、光をうしなった眼つき、なるほど、一見して

気ちがいである。

 耕助はちょっと失望の色を見せたが、そのときである。向こうのほうからはじけるよう

なわらい声がきこえてきた。月代と雪枝なのである。きゃっきゃっとふざけまわる声、げ

らげらとわらいころげる音。──

「あっ、いけない!」

 そのとたん、早苗が叫んだ。

「和尚さん、和尚さん、その方をつれて早く向こうへいらして……」

 なにがいけないのか耕助にも、すぐその理由がのみこめた。月代と雪枝の声がきこえた

瞬間、与三松の顔つきががらりとかわったのである。光をうしなった眼のなかに、けだも

ののような殺気がほとばしった。髪の毛が逆立って、たるんだ頰がすさまじく痙けい攣れ

んした。

「金田一さん、向こうへ行こう」

 和尚に手をとられて渡り廊下までひきかえしてくると、がたがたと格子をゆすぶる音が

きこえた。けだもののようなあらっぽいうなり声がする。それにまじってきこえる早苗の

声は、いまにも泣き出しそうである。

「ど、どうしたのです。あの騒ぎは……」

 渡り廊下をうろうろしていた清水さんは、驚いたように和尚に尋ねた。それから意味あ

りげに耕助にむかってうなずいた。

「なあに、気ちがいさんがあばれ出したんじゃよ。ああなるとほかのものでは手におえ

ん。早苗だけじゃ、あの子は不思議に気ちがいをよう手なずけとる」

 三人が元の座敷へもどってくると、村長の荒木さんと幸庵さんが、だまりこくったまま

座っていた。

「和尚さん、また病人があばれ出したようじゃな」

 幸庵さんはおびえたような眼の色をしている。村長は相変わらずむっつりしていた。ど

こかでまだ、月代と雪枝のわらい声がする。和尚はにがにがしげに眉をひそめて、

「あれも困ったものじゃが、あの声をきくといきり立つ気ちがいにも困ったものじゃ、現

在親子でありながら……因果なものじゃな」

 と、吐き出すようにつぶやいた。

「ときに金田一さん、煙草のことはどうなりました」

 そう尋ねたのは清水さんである。

「そのことですがね」

 と、耕助は二包みの吸い殻と六本の煙草を取り出すと、

「やはりこれは同じものですよ、ごらんなさい。この煙草はDのページで巻いてあるで

しょう。ほら、dum'dum, dummy, dump というふうにつづいています。ところが寺でひろっ

た吸い殻にも dumping, dumpish, dumpling という字が見えているんです。だから寺でひろっ

た吸い殻は、だれがあそこで吸ったにしろ、たしかに昨日早苗さんが巻いた二十本のうち

の一部にちがいないのです。それに……清水さん、あの足跡はどうでした」

 清水さんは困ったようにひげ面をしかめながら、

「それが、その……どうも妙ですな。たしかにあの足跡にちがいないのだから、……え

え、そう、寺で見つけたやつと、たしかに同じ足跡があるんです」

「足跡……?」

 和尚が不思議そうに眉をひそめた。

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