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第四章 吊り鐘の力学(2)
日期:2023-11-30 16:37  点击:315

「なるほど、なるほど、この重い吊り鐘を、どうやって持ち上げたか、とおっしゃるんで

すね。それはね、つまり力学の問題ですな。吊り鐘の力学……、清水さん、ごらんなさ

い。吊り鐘のふちにあたるところに、ひとところ穴が掘ってあるでしょう。それから、あ

れは石地蔵かなんかの台座ですね。穴から一尺、いや、一尺五寸はありますか、ちょうど

吊り鐘のそばにある。それから……」

 と、耕助は台座から反対のほうを指さしながら、

「ほら、ごらんなさい。向こうの崖に太い松の木が生えているでしょう。あの松の木と、

石の台座と、吊り鐘のしたに掘られた穴、この三者はほぼ一直線になっていますね。しか

も、あの松の木には、おあつらえ向きの高さに太い枝が出ていて、しかも、その枝は下向

きにのびている。つまりこの三者が、吊り鐘の端を持ちあげる、メカニズムを構成してい

るのですね」

 清水さんにはまだ納得がいきかねたが、それでも耕助の指さすにしたがって、ひとつひ

とつうなずいてみせた。

 なるほど、耕助のいうとおりである。

 吊り鐘のふちにあたるところに、ひとところ、直径五寸ほどの穴が掘ってある。その穴

から一尺五寸か二尺ほどはなれたところに、石の台座がのこっている。その台座のうえに

は、昔、お地蔵様が鎮座ましましたのだが、いつのころからか、かんじんの御尊体は紛失

して、いまでは、台座だけがのこっているのである。相当古いものらしく、ずいぶん摩滅

しているが、それでも蓮れん華げのかたちがかすかにのこっている。さて吊り鐘のしたの

穴と、その台座をむすんだ直線をのばしていくと、向こうに、崖の途中に生えた太い松の

木が立っている。崖から二尺か三尺のところまで、その松の木の太い枝が張り出している

のだが、その枝は、海岸でよく見るように、下方へ向かって長くのびているのである。

「で……?」

 清水さんがあとをうながすように、耕助の顔をふりかえった。

「つまりですね」

 と、耕助は石の台座から松の木のほうへ歩いていくと、

「五倍……約五倍ありますね。いえね、穴から台座までの距離と、台座から松の木までの

距離の比ですがね。前者を一とすると後者は五の比率になっているんです。さて、ここに

梃て子この法則を応用すると、つぎのような方程式が成り立つわけです、Qを吊り鐘の目

方、Pを吊り鐘を持ち上げる力とすると P=Q/5 つまり、穴から台座までの距離

と、台座から松の木までの距離の比に反比例するわけですね。ところで和尚さん、吊り鐘

の目方はどのくらいあるかわかりませんか」

「さあて」

 と、和尚は肉の厚い顔をしかめて首をかしげたが、

「そうそう、あれは供出するとき、一応目方を計ったはずじゃったな。了沢や、おまえい

くらあったかおぼえておらんか」

「和尚さん、その時分、わたしは寺におりませんでしたので……」

 了沢君は終戦まで、水島の軍ぐん需じゆ工場へ、徴用でとられていたのである。

「和尚、四十五貫じゃったと思う。四十五貫とちょっと……」

 そばから口をはさんだのは、村長の荒木さんである。荒木さんはそれだけいうと、また

きっとくちびるをへの字なりに結んだ。そのそばには片腕を首からつった幸庵さんが、寸

ののびた顔をして立っている。

「四十五貫? 案外軽いものですね。そうすると、四十五貫の五分の一、すなわち九貫を

持ちあげる力さえあれば、この吊り鐘の端を持ちあげることができるわけです。なにか丈

夫な棒があれば、実験してお眼にかけるのだが……」

「お客さん、この棒ではいけませんか」

 竹蔵が足下から取り上げたのは、太い長い樫かしの棒だった。耕助はちょっと度ど肝ぎ

もをぬかれたような顔をして、しばらく竹蔵の顔を見つめていたが、急に、ひったくるよ

うにその棒を手にとってみた。そして、にわかに呼吸をはずませると、

「竹蔵さん、竹蔵さん、この棒はいったい、どこにあったのですか」

 と、早口に尋ねた。

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