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第四章 吊り鐘の力学(3)
日期:2023-11-30 16:37  点击:299

「へえ、すぐ向こうの草むらのなかにほうり出してあったので。……これは船着き場の、

船をつなぐために立ててある棒でござりますが、だれがこんなところへ持ってきたのか

と、さっき拾いあげておいたのでござります」

「船着き場に立ててある棒……? そうするとだれでも利用しようと思えば利用できるわ

けですね。そして、すぐ向こうの草むらのなかにほうり出してあった……」

 耕助はくるりと清水さんのほうへ向き直ると、

「清水さん、清水さん、犯人にとっては吊り鐘の力学なんか問題じゃなかったのですよ。

吊り鐘をどうして持ち上げたかそんなことはわかろうがわかるまいが、犯人にとっては

いっこうさしつかえなかったんですよ。だからこうしてこの棒も、平気で現場付近へ捨て

ていったんです」

「金田一さん、するとこの棒で……?」

「そうです、そうです。ほら、ここに傷がついてるでしょう、これは吊り鐘のふちででき

た傷、それから、ここについているのは、石の台座でできた傷でしょう。論より証拠ひと

つやってみましょう」

 崖のうえには十人ちかいひとびとが、半円をえがいて立っている。了然さんに了沢君、

村長の荒木さんに医者の幸庵さん、竹蔵のそばに早苗さんと勝野さんが、いまにも気が遠

くなりそうな瞳ひとみをして立っている。それから少しはなれたところに、お志保さんに

儀兵衛どん、美少年の鵜飼君の一団が立っている。陽は美しく輝いて海から吹いてくる微

風が、快く一同の頰ほおをなでる。それにもかかわらずだれの眼も、みな一様に暗かっ

た。ひとをひとくさいとも思わぬお志保さんでさえ、おびえたような眼の色をして、しき

りに衣え紋もんをつくろっている。

 耕助もさすがに興奮しているのである。吊り鐘の下に掘られた穴へ棒を突きさすとき、

棒のさきがかすかにふるえた。さて、棒を突きさすと、ななめにそれを右の台座にもたせ

た。棒はいま、はねつるべのように、ピンと虚こ空くうをさしている。

 耕助はあたりを見回して、

「だれかこの棒の端をおさえてくれませんか。竹蔵さん、あんたひとつやってみてくださ

い」

 竹蔵もさすがにちょっと逡しゆん巡じゆんの色を見せたが、それでも悪びれずにまえへ

出てきた。

「この棒をおさえるンですか」

「そうそう、なるべく端を持ったほうが、少ない力ですみますよ。ひとつ、ぶらさがるよ

うにして、やってみてください」

 竹蔵は両手につばをつけると、棒の端を握ってうんとそれにぶらさがった。すると、石

の台座を支点として梃て子この端がしだいに下がっていく。と、同時に吊り鐘が少しずつ

傾いて、棒を突きさした部分が、一寸二寸と持ち上がっていった。

 ひとびとのくちびるから津波のようなため息がもれ、だれからともなく、ざわざわとざ

わめきが起こった。耕助はあわてて吊り鐘のまえへ立ちはだかると、

「だれもよらないで、……だれもよらないでください、竹蔵さん、もうひと息です。もう

ひと息……そうそう」

 竹蔵は真っ赤な顔をして梃子の端をおさえている。血管がみみずのようにふくれあがっ

て、淋りん漓りと汗が吹き出している。小こ兵ひようながらも潮できたえた体なのであ

る。盛り上がった筋肉がむくむくと躍動すると、やがて棒はへそのへんまで下がった。

「そうそう、それでよござんす。うしろに松の枝が張り出してるでしょう。その下へ棒の

端を突きさして、手をはなしてもはねあがらぬようにしてください。そうそう、それで

けっこうです。それで、手をはなしてみてください」

 いわれるままに竹蔵は、下方へのびた松の枝の下がわへ、棒の端を突っ込むと、しばら

く呼吸をはかっていたが、やがてそっと手をはなした。松の枝は二、三度大きくゆれた

が、それでも折れるようなことはなく、がっきりと梃子の端をおさえている。

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