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海へ飛び込んだ男(5)
日期:2023-11-30 16:40  点击:288

「摺鉢山というのは、ほら、あの千光寺の向こうに見えているあの山ですがね。そこには

昔の海賊の砦とりでも残っているし、戦争中、防空監視所やら、高射砲陣地やらができま

したから、まるで、迷路みたいに穴が掘ってあります。だから、そういうやつがかくれる

には、おあつらえむきの場所なんです。ところで、警部さん」

 と、清水さんはそこでもったいぶったからぜきをすると、

「いま、警部さんのお話をうかがって、思いあたる節があるんですが、昨夜、そいつの姿

を見たという者が、この島にひとりいるんですよ。いまのお話をきくまでは、わたくし、

ほんとうとは思えなかったんですが、たしかにそいつにちがいない」

「だ、だれですか。そいつの姿を見たというのは?」

 耕助はびっくりしたように清水さんの顔を見直した。

「幸庵さんですよ。幸庵さんはそいつの姿を見たのみならず、格闘したといっているんで

す」

「あっ、それで……わかりました。幸庵さんはそれで、ああして腕をつっているんです

ね」

「そうなんです。格闘して崖がけから突き落とされた拍子に、左腕を折ったといっている

んですがね。わたしはまた、幸庵さんのことだから、酒に酔って崖から落ちたのを、きま

りが悪いもんだから、そんなことをいって、ゴマ化しているんだろうと思いましたが、な

るほど、そんな凶暴なやつが、島に潜入しているとすれば……」

 ちょうどそのころ一同は、駐在所の前まで来ていた。気がつくと一同のあとには、島の

連中がお弔とむらいの行列のようにゾロゾロ長くつづいていた。

 耕助は警部をふりかえると、

「ところで、警部さん、あなたはこれからすぐ死し骸がいを見にいらっしゃいますか。実

はわたしはそのまえに、清水さんから昨夜のいきさつをききたいのですがね」

「ああ、そう」

 磯川警部はちょっと小首をかしげたが、

「いや、わたしも死骸を見るまえに、一応、話を承ることにしよう。ときに、死骸はどこ

にありますか」

「自宅へひきとらせてあります。ほら、向こうの崖のうえに見えている、あのお城みたい

な家、あれが本鬼頭の屋敷ですがね」

「ああ、そう、きみ、きみ」

 と、警部はお巡りさんのひとりを呼んで、

「きみは先生を案内して、さきに検視をしてきてくれたまえ。先生よろしくお願いしま

す」

 一行といっしょにやってきた警察医が、お巡りさんのひとりに案内されて、本鬼頭の坂

をのぼっていくのを見送って、一同ゾロゾロと駐在所へ入っていった。物見高いのは都の

人間ばかりではない。駐在所のまわりには島の老若男女が蠅はえのように集まってくる。

 ちょうど昼食の時刻だったので、警官たちは持参の弁当をつかいはじめたが、耕助はま

た清水さんのごちそうになった。清水さんの奥さん、お種さんは、女の機転ではやくも御

亭主の勘ちがいに気づいたらしく、耕助にサービスこれつとめる。耕助にはそれがおかし

かったが、考えてみるとかれは、朝からなんにも食べていなかったのである。

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