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忘れられた復員便り(2)
日期:2023-11-30 16:43  点击:256

 そこで、支離滅裂な清水さんの話を、できるだけ要領よく整理すると、だいたい次のよ

うになるのである。

 一、耕助を留置場へ閉じこめておいてから、清水さんは間もなく本ほん鬼頭へ行った。その

とき本鬼頭には、勝野さん、早苗さん、月代、雪枝の姉妹のほかに、了然さんと了沢君が

来ていた。そう、そのとき雪枝はたしかにまだ生きていたし、本鬼頭の家にいた。清水さ

んはその姿を見たのみならず、口も利きいたのである。清水さんが本鬼頭へついたのは、

ちょうど六時半であった。

 二、七時半ごろに、幸庵さんと村長の荒木さんと竹蔵が、相前後してやってきた。ところ

が、それからだいぶたって、雪枝の姿が見えないことに気がついた。勝野さんと早苗さん

が、また、家じゅう探してみたがどこにも姿が見えないので、一同の不安はにわかにつ

のってきた。そこで手分けして、雪枝の行ゆく方えを探しに出ることになった。たぶん八

時半ごろのことであったろうと思う。

 三、手分けの人数はこうである。清水さんと村長の荒木さんが組みになった。竹蔵はまた了

沢君といっしょだった。幸庵さんは例によって、かなり酔っぱらっていたので、残ってい

るようにといったが、ききいれないで、ひとりでふらふら飛び出したらしい。和尚は老齢

だし、昨夜のようなお天気の晩には、持病のリューマチがいたむというし、それに、みん

なが出てしまうと、気ちがいをのぞいてあとは女ばかりになるので、家に残ってもらうこ

とになった。だいいち、月代がおびえて、和尚をはなさなかったそうである。

 四、本鬼頭を出た一同は坂のうえまでいっしょに来たが、そのころはまだ雨は降っていな

かったものの、空は真っ暗だった。やがて四人は、千光寺へのぼるつづら折れの下まで

やってきたが、竹蔵と了沢君は寺へ行ってみるというのでそこで別れた。清水さんと村長

の荒木さんは、その道をまっすぐに進んで、天てん狗ぐの鼻のそばまで来た。天狗の鼻に

は吊り鐘がおいてあったが、清水さんが懐中電燈で、吊り鐘のまわりを調べたときには、

たしかにあの振ふり袖そではのぞいていなかった。

「ちょっと待ってください。そのときあなたは、吊り鐘のそばへ寄ってみたのですか」

 耕助はそこでそのことばをはさんだ。

「いや、そばまで寄ってみたわけじゃありません。道のほうから岩のうえへ懐中電燈を向

けるとあの吊り鐘が眼にうつった。そこでぐるりと懐中電燈の光で吊り鐘のうえから下へ

となでてみたんですが、そのときには、たしかに、あんな振り袖はのぞいていなかったん

です。金田一さんはさっき御覧になったから御存じのはずじゃが、あの振り袖は道のほう

へむいてのぞいているから、あれがのぞいていたらそのとき眼についたはずです。このこ

とはわたしばかりじゃなく、村長さんの荒木さんも、はっきりそう申しておりますから、

だれがあそこへ死骸を押しこんだにしろ、それはわれわれがとおり過ぎてからのことだろ

うと、これだけはきっぱりと断言できると思いますんで」

「いや、ありがとう。では、それからさきを話してください」

 五、岩のうえになんの異状もなかったので、清水さんと村長は、坂を下って分わけ鬼頭へ赴

く。雨またポツリポツリと降り出し、風強く、波の音かまびすし。分鬼頭では儀兵衛ど

ん、お志保さん、鵜飼君と三人に会う。儀兵衛どんとお志保さんは、例によって酒をのん

でいたらしい。三人とも雪枝のことを知らぬという、その日は一度も雪枝に会わず、鵜飼

君も寺よりかえってから一度も外出しなかったといっている。

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