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山狩りの夜(1)
日期:2023-12-01 13:27  点击:297
山狩りの夜
 いちばんおくれてやってきた検事の一行が、検視をすませて立ち去ったのは、獄門島に
雀すずめ色のたそがれが、蒼そう茫ぼうとしておおいかぶさってくるころだった。このへ
んでは、一応検事の指揮をあおぐというかたちになっているものの、実際捜査にあたるの
は警察のひとびとである。検事のあとから木下博士や前田さんも、解剖を終わって島をは
なれた。
 解剖の結果からは格別新しいことも発見できず、花子は頭を殴打されて昏こん倒とうし
ているところを絞殺されたものであり、雪枝は手ぬぐいようのもので絞殺されたのち、吊
り鐘の下へおしこめられたものであろうことが、改めて確認されたまでのことである。犯
行の時刻についても、だいたい幸庵さんの意見と一致していた。雪枝はまえの晩の日没後
間もなく殺されたのであろうということであった。
 検視がすむと本鬼頭では、二つのお弔とむらいを出すのに目のまわるように忙しくなっ
た。ほんとうならば花子のお弔いは今日出すはずだったが、二日もお弔いがつづいては、
はたのものが迷惑するだろうというので、明日まで待って雪枝といっしょに葬ることに
なったのである。新しい寝棺がまたひとつ調達され、若いものが昨日掘った墓穴のそば
へ、もうひとつ穴を掘るために走った。このへんではどこでも土葬で、墓地は千光寺の背
後にそびえている、摺鉢山の中腹にある。
 一方、磯川警部はそのころまでに、だいたい関係者一同の聴き取りを終わっていたが、
その結果はといえば、こいつまるで、雲をつかむような難事件だわいと、いまさらのごと
くうんざりせざるをえなかった。ただひとつの希望は幸庵さんの出っくわしたという怪人
物で、さてこそ幸庵さんはかなり鋭く追及されたが、なにしろくらがりのなかでのだんま
り模様、幸庵さんも清水さんに申し立てた以上のことを付け加えることはできなかった。
 ただ耳寄りなのはその男が、本鬼頭の裏木戸から出てきたらしいということとふろしき
包みみたいなものを持っていたということ。そこで本鬼頭の早苗さんや勝野さんが、厳重
に取り調べられたが、ふたりともいっこう心当たりがないという申し立てだった。ひょっ
とするとかれらの知らぬ間にだれかがしのびこんで、なにか持ち出したのではないかとい
う耕助の意見だったが、早苗は格別、なにもなくなっているものはなさそうだという。勝
野さんにいたっては、てんで意気地なく、ただおろおろとするばかりで、ふろしき包みの
ひとつやふたつ、なくなろうがなくなるまいが、気のつく気づかいはないので、耕助はは
じめから勘定に入れてはいなかった。
「金田一さん、こうなるといよいよ全島の大捜索をしてみなきゃなりませんな。ひょっと
すると、島へ逃げこんだギャングというのが、すなわち昨夜幸庵さんの出会った男で、ふ
たりの娘を殺した犯人というのもそいつかもしれん。島へ逃げこんでかくれているところ
を見つかったものだから……」
「警部さん、犯人がそいつかもしれぬという説にはぼくも同意します。しかし、殺人の動
機については、とてもそんな単純なものとは考えられない。犯人がその男にしろ、その男
でないにしろ、そこにはもっともっとすさまじい、奥底のふかい動機があるにちがいない
んです。ときに警部さん、あなた、どうします。こっちへ泊まりますか。それともひきあ
げますか」
「いや、なるべくならばこっちへ泊まりたい。このほうの事件ばかりじゃない。ギャング
のこともあるしね。それにもう一度現場も見たいし。……いちいち県から通っていちゃ、
とても埒らちがあきそうにありませんからね」
「そう、そのほうがいいでしょう。この家はこんなにひろいのだから、五人や十人寝られ
ぬということはない。刑事さんもみんないっしょに泊まられたら……なんならぼくも今夜
から、ここに泊めてもらうことにして、ひとつ早苗さんに交渉してみましょうか」
「ああ、そう願えたらこんなありがたいことはないが……」
 早苗にもむろんいなやはなかった。ことにあいつぐ妹たちの横死に、おびえきっている
月代や、意気地なしの勝野さんは、警察の連中が泊まってくれるときいて、やっと愁しゆ
う眉びをひらいたかたちで、月代のごときは子どものようにころころよろこんだ。
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