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山狩りの夜(2)
日期:2023-12-01 13:29  点击:296
「まあ、そんならみんな泊まってくれはるのん。ああ、うれしい。わて、にぎやかなんが
大好きやわ。陰気くさいの大きらい」
「月代ちゃん、あんたあんまりよろこんで、うっかり外へ出ちゃいけませんよ」
 耕助がからかい顔に注意をすると、
「わて、出えしまへん。雪枝ちゃんや花ちゃんあほや。日が暮れてから出歩くなんて」
「絶対に出ませんか。たとい鵜飼さんから呼出状がやってきても……」
「まあ、いやな耕助さん」
 月代はしなをつくって、ながい袂たもとで耕助をぶつまねをしながら、
「出えへん、出えへん。だれがなんと言うてきても出やしまへん。わてかて命が惜しいも
ん」
 おろかしいはおろかしいながら、こんどねらわれるものありとすれば、自分であろうこ
とを知っているのが哀れであった。
「そう、それがよろしい。出歩きさえしなければ大丈夫ですからね。ここ当分、だれがな
んといってきても、けっして外へ出るんじゃありませんよ」
「ええ出えへんわ。その代わりわて人殺しを祈り殺してやるわ」
「人殺しを祈り殺す?」
 耕助はおどろいたように月代の顔を見直した。月代はしかし平然として、冴えぬ眼をみ
はりながら、
「ええ、そうよ。わていつも心配なことや気にいらんことがあると御ご祈き禱とうするの
んよ。わての御祈禱よう利くわ。わてに悪いことをしたもん、みんな罰ばちがあたるわ」
 耕助がもの問いたげな眼でふりかえると、早苗はかるく微笑をふくみながら、つぎのよ
うに説明を加えた。
「ほら、お庭の向こうに白木づくりのお家があるでしょう。あれが祈禱所なんです。月代
ちゃんはいつも気に入らぬことがあると、あの祈禱所へ閉じこもって御祈禱するんです。
月代ちゃんの御祈禱は、たいへんよく利くって島でも評判ですのよ」
「そうらね、早苗ちゃんもああいってるでしょう? わて今夜は一生懸けん命めいに御祈
禱して、きっと悪者に罰をあててやるわ」
 月代は大得意であった。
 耕助はいつか了然和尚に、あれは祈禱所と教えられたことを思い出した。その祈禱所は
奥庭の小高いところにあって、与三松の座敷牢とむかいあっている。耕助はこういう家の
なかに、どうして祈禱所なんかがあるのだろうといぶかっていたが、月代が御祈禱の名人
とは、いままで夢にも知らなかった。
 耕助はそのことについて、もっとききだしたかったが、そのとき磯川警部が時計を見
て、
「金田一さん、もう一度現場を見たいのだが、ぐずぐずしていると日が暮れてしまう。そ
ろそろ出かけようじゃありませんか」
 と、さえぎったので、その話はそのままになってしまった。このことを、のちにいたっ
て耕助は、どんなに悔やんだかわからないのだが。……
 警部のことばに耕助も時計を見た。時刻はまさに六時四十分。耕助はさぐるように早苗
の顔を見る。早苗はしかし、気がつかぬらしく、ぼんやりなにか考えている。彼女は今夜
も、復員便りを忘れているのである。……
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