行业分类
山狩りの夜(3)
日期:2023-12-01 13:35  点击:302
 外へ出るとあたりはそろそろほの暗くなりかけている。日が落ちると島の空気はにわか
に冷える。耕助はうそ寒く肩をすぼめながら、
「寺へ行ってみますか。それとも……」
「いや、天てん狗ぐの鼻のほうへ行ってみましょう」
 雪枝の殺された岩のうえには、まだ吊り鐘がぶらさがったままで、刑事がふたり丹たん
念ねんに、あたりの草のなかを探していた。秋もようやくたけなわで、可か憐れんな萩は
ぎの花があちこちの岩角に、うす紅の錦にしきをつづっている。
「なにか見つかったかね」
「いいえ、別に……」
「ほかの連中は?」
「山狩りに出かけたまままだ帰りません」
 ほかの刑事連中は、清水さんや島の若いものを案内者にして、摺鉢山へギャング狩りに
出かけていったのである。
 警部はつりあげられた吊り鐘を仰ぎながら、
「すると吊り鐘は、この真下に伏せてあったわけですな。ところで金田一さん、ひょっと
すると犯人は、最初清水君や村長が、ここをとおり過ぎたとき、吊り鐘の向こうにかくれ
ていたのじゃあるまいか」
「そういう可能性も考えられないことはありません。清水さんも村長も、道のほうからと
おりがかりに懐中電燈で照らしてみただけで、吊り鐘のそばへ寄ってみたわけじゃないの
ですからね。しかし、いまぶらさがっている位置でもわかるとおり、吊り鐘はほとんど岩
角すれすれに置いてあったのですよ。その間一尺とはなかった。だから犯人がひとりなら
ともかく、雪枝さんの死体というものをかかえて……どうですかねえ」
 ふたりは岩の端に寄って下をのぞいてみた。岩は少し出っぱり気味になっていて、腹ば
いになってそこから下をのぞくと、眼の下三間ほどのところを、下り坂が走っている。そ
れ以外はきりたてたような十数丈の断だん崖がいで、たとい眼の下に見える道からとはい
え、崖がけをはいのぼってくるということは絶対に不可能だった。崖のふもとを見ると、
潮のかげんか風の加減か、海草だの塵じん芥かいだのがいちめんに吹き寄せられて、波の
まにまにゆっさゆっさとゆれている。
「なるほど、これじゃだめですな。家や守もりのような人間ならともかく、とてもこの崖
にゃ、吸いついてはいられまい」
 ひざをはらってふたりが岩から立ち上がったときである。不意に坂のうえのほうから口
口にののしる声と、騒々しい足音がきこえてきたので、一同がぎょっとしてふりかえる
と、ころげるように坂を下ってきたのは、てんでに鍬くわだのシャベルだのをかついだ若
いものであった。本鬼頭の墓地へ穴掘りに出向いていった連中である。
「あっ、警部さん、出た、出た!」
 警部の姿を見つけると、若者たちが口々に叫んだ。
「出たってなにが出たんだ」
 警部も息をはずませる。
「変なやつです。顔じゅうにひげを生やして……」
「兵隊の服を着て……」
「恐ろしく眼つきの鋭い男です」
「いたか! そしてどこにいたんだ」
「本鬼頭の墓地のすぐ裏っかわです……」
「本鬼頭のうしろは崖になっていたんですが……」
「あっしらが穴を掘ってるてえと、崖のうえががさがさいう。そこでひょいとあっしらが
ふりかえると……」
「草むらのなかから変なやつがのぞいているンです。なにしろ物すごい眼つきなん
で……」
「ありゃあ、たしかに島のもんじゃありません。今まで見たこともない男です。きっと島
へ逃げこんできた、お尋ねものにちがいありませんぜ」
 興奮した若者たちは、口から泡あわをとばしていたが、
「それじゃおまえたち、なぜそいつをつかまえようとしなかったんだ」
 と、刑事のひとりにきめつけられると、急に気まずそうに口をつぐんで、
「だって、旦那、そいつは飛び道具を持ってるってえ話で……」
「現にあっしがだれだと声をかけると、なにか身がまえるようなふうをしやがったんで」
「それで蜘く蛛もの子をちらすように逃げてきたのかい。板いた子こ一枚下は地獄という
荒あら稼か業ぎようの、島のあんちゃんにも似合わないじゃないか」
 もうひとりの刑事がせせらわらった。
小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/23 21:26
首页 刷新 顶部