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山狩りの夜(4)
日期:2023-12-01 13:47  点击:245
「そういわれちゃ一言もありませんが……なにしろだしぬけのことで……おい、だれだ
い、そら出たあといちばんに逃げ出したなあ……」
「おれじゃねえよ。源げんの野郎だろう。源の野郎がいちばんに逃げ出したもんだから、
つい、こちとらもつりこまれて……」
「馬鹿あいえ、そういうてまえじゃねえか。キャッとかスッとか、変な声を出しゃあがっ
たのは……」
 若者たちがわいわい言っているところへ、またどやどや上の坂から足音がきこえてきた
かと思うと、急ぎ足に下ってきたのは、清水さんをはじめとして、山狩りに出向いていた
刑事連中であった。
「ああ、おまえたち、ここにいたのか。さっきの騒ぎはありゃあどうしたのじゃ」
「清水さん、出たんですよ。変なやつが出たんです。そこでいまこうして警部さんに報告
してるところなんで……」
「清水君、きみのほうはどうだね」
 警部がはたから口をはさんだ。
「あっ、警部さん、そうです、そうです。たしかにだれかこの島へまぎれこんだやつがあ
るんです。海賊の砦とりでにだれかが焚たき火をしたあとが残っております。それからこ
のふろしき……」
 清水さんのとり出したのは、雨にぬれてよごれていたけれど、それほど長く風雨にさら
されていたとも思えないふろしきだった。ひろげてみると浅黄に白く鬼の面が染め出して
あり、うえに本という字が、これまた白く染め抜いてある。
「この紋は……?」
「本鬼頭の紋どころですよ。分鬼頭のもやっぱり鬼の面ですが、うえに分という字が染め
抜いてあります」
 磯川警部は耕助のほうをふりかえって、
「そうするとやっぱり幸庵のいうことがほんとうだったんだね。やつめ、昨夜本鬼頭へし
のびこんで、ふろしきにいっぱい、なにか盗み出したにちがいない」
「そう、そうかもしれません」
 耕助はなんとなく気乗りのしない返事であった。警部はさぐるようにその顔をながめな
がら、
「そうかもしれない?……いやそうにきまっているじゃありませんか。現にここにこうし
て本鬼頭のふろしきがあるのだし……」
「ええ、そりゃあそうですが……しかし、それならなぜ早苗さんが気がつかないのでしょ
う」
「そりゃあ、きみ、ああいうひろい家だもの、ふろしきの一枚や二枚、いや、ふろしきに
一杯や二杯盗まれたところで、気がつかないのも無理ないさ。それにふだんとちがって、
取りこんでる最中だしね。しかし、金田一さん、あんたはなにを考えているんですね」
「いや」
 耕助は急にはげしく首を左右にふると、
「なんてことはありませんが……いずれにしても警部さん、これでいよいよこの島に、変
なやつがひとりまぎれこんでいることがはっきりしたんですから、島のものを狩り集め
て、大がかりにひとつ山狩りをやってごらんになっちゃ……」
「そうだねえ」
 警部はあたりを見回した。たそがれの薄明かりもすっかり闇やみに席をゆずって、たが
いに顔さえ識別がつけかねるくらいの暗さになっている。瀬戸内海もすっかり暮れて、宵
の明星がにわかに光度をましてくる。
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