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山狩りの夜(5)
日期:2023-12-01 13:47  点击:298
「明日といっちゃ手おくれになるかもしれませんぜ。幸い今夜はよい月夜です。ひとつ
やってごらんになっちゃ……」
「よし、それじゃ思いきって決行するか」
 磯川警部もどうやら心がきまったようである。
 その晩の獄門島こそみものであった。宵から真夜中にかけて、ものものしい気配が島の
なかにみなぎりわたった。
 警部の一行はいったん本鬼頭へひきあげると、早苗さんや勝野さんの心づくしの夕飯
を、倉そう皇こうとしてかきこんだ。一方、村へかえった若者たちは、檄げきをとばして
われと思わんものを狩りもよおした。いずれも命知らずの漁師たちである。それをきくと
われもわれもと本鬼頭へ駆けつけてくる。
 こうして警部たちの用意のできた八時ごろには、本鬼頭の周囲には、数十人の漁師たち
が集まっていた。かれらはてんでに炬火たいまつだの提灯ちようちんだのを用意し、ま
た、てごろのえものをひっさげている。なんのことはない。一いつ揆きでも起こしそうな
格好だった。
 警部がそれらの連中を幾組かに編成し、それぞれ指揮をあたえているあいだに、奥座敷
では耕助が、早苗をつかまえてこんなことを尋ねていた。
「早苗さん、あんたはほんとにこのふろしきを盗まれたことを御存じなかったのですか」
「あたし……いいえ、……どうしてですの」
 早苗はなにもかも見抜こうとするかのような眼で、きっと耕助の顔を見返した。恐ろし
い強い意志が、辛うじて表面の平静をささえているものの、その底にはなにかしら、はげ
しい感情が奔ほん流りゆうとなってのたうちまわっているのが感知される。彼女はしばら
く、必死となって耕助の視線をはじきかえしていたが、やがてしだいに、たゆとうように
眼を伏せていく。
「早苗さん」
 耕助はいくらか声をはずませて、
「今夜はみんなで山狩りをするんですよ」
「…………」
「あれだけおおぜいの人間に狩り立てられたら、だれだって無事に逃げおおせることはで
きますまい。きっとつかまるにきまっている。早苗さん、あなた、それでもかまいません
か」
 早苗ははっとしたように顔をあげた。そして恐ろしい眼をして耕助の顔をにらんだ。そ
の視線の恐ろしさはどこか殺気さえふくんでいるように思われた。
「金田一さん! それ……どういう意味ですの」
「わかりませんか」
「わかりません。あたしにはわかりません。そんななぞのようなことをおっしゃったっ
て……あたし……あたし……」
 だが、そこへ潮つくりの竹蔵があわただしく入ってきたので、早苗のことばはふっつり
途切れた。竹蔵が来たのは警部が呼んでいるというのである。
「ああ、そう、いますぐに行きます。ああ、ちょっと、竹蔵さん」
「へえ、なにか御用で……?」
「月代ちゃんはどうしましたか。月代ちゃんが見えないようだが……」
「あら、わてならここにいるやないの」
 ケラケラわらいながら、足音をバタバタさせて入ってきた月代の姿を見て、瞬間、耕助
は棒をのんだように立ちすくんだ。
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