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山狩りの夜(6)
日期:2023-12-01 13:48  点击:244
 月代は白しら拍びよう子しのようななりをしているのである。白い練ねり絹ぎぬの水す
い干かんをつけ緋ひの長なが袴ばかまをはき、頭には金色の立たて烏え帽ぼ子し。そして
手には黄金の鈴を持っている。
 耕助は大きく眼をみはって、
「月代ちゃん、その姿は……?」
「あら、耕助さん、忘れやはったの。わてこれから御ご祈き禱とうするんやないの。あん
た方、これから山狩りするんでしょ。わて、その山狩りで悪者がつかまるように御祈禱す
るの。悪者きっとつかまるわ。だってわての御祈禱、とてもよく利くのんよ」
 月代はケラケラとわらい、それからまた、足音をバタバタさせながら、座敷の外へとび
出していった。耕助はすっかり度ど肝ぎもを抜かれたかたちで茫ぼう然ぜんとしてうしろ
姿を見送っていたが、あとから思えば、それこそ生きている月代を見た最後であった。
 そこへまた警部のもとから、第二の使者がやってきた。
「ええ、すぐ行きます。早苗さん」
「はあ。……」
「月代ちゃんを頼みます。あの子に気をつけてやって……」
 早苗は蒼あお白じろい顔をして、ぐいと眉まゆをつりあげた。そんなこと、いわれるま
でもないといった顔色なのである。
「竹蔵さん、あんたも山狩りに行くのかい」
「へえ、行きます」
「きみはここに残ってもらいたいのだが……」
「でも、警部さんに一隊の指揮をまかされましたんで……いまさら、へんがえするわけに
もまいりますまい」
 そのとき、だしぬけに奥のほうから、気ちがいのすさまじい怒号がきこえてきた。早苗
はそれをきくとはっとして、
「あの……失礼します。伯父さま、今夜の騒ぎで気が立って……」
 急ぎ足に部屋を出ていく。
 耕助はなんともいえぬ不安な感じで、そのうしろ姿を見送っていたが、やがて竹蔵にう
ながされて玄関へ行く途中、例の座敷をのぞいてみると、いましも了然さんと了沢君が、
仏前でお経をあげているところだった。村長の荒木さん、医者の村瀬幸庵さん、それから
分鬼頭の儀兵衛どんにお志保さん、さらに美少年の鵜飼君も神妙にひかえている。騒ぎが
こんなに大きくなったので、さすがに分鬼頭でも知らぬ顔はできなかったのである。
 耕助の顔を見ると村長の荒木さんが、
「ああ、金田一さん、あんたも山狩りのお供かな」
 と、落ち着きはらった声だった。
「ええ、ちょっと行ってまいります」
「そら、御苦労さま。わたしも行かねばならんのだが、今夜はお通夜じゃで……お通夜が
すんだら、あとから追っかけていきましょう」
「いや、どちらでもあなたの御都合のよいように……」
 磬けい子すの音がゴアアアアンとゆるく室内の空気をゆすぶる。和尚はついにふりかえ
らなかった。
 玄関へ出てみると、あらかた出発したあとで、竹蔵のひきいている一隊と、警部の手に
つく一隊が、それぞれ六、七名ずつ残っているきりだった。
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