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山狩りの夜(7)
日期:2023-12-01 13:48  点击:298
「金田一さん、さあ、出発しましょう」
「いや、ちょっと待ってください。このうちの三、四人はここに残ってもらいたいのです
がね」
「どうして?」
「どうしてって、山から狩り出された男が、いつなんどき、この屋敷へ逃げこんでこない
ものでもありません。そうなると不用心だから、三、四人残って、家の周囲を見張ってい
ただきたいのです」
 もっともな耕助のことばに、警部もむろんいなやはなく、二つの隊から二人ずつ選抜す
ると、その四人に本鬼頭の警戒にあたらせることになった。
「さあ、それではいよいよ出発しましょう」
 時計を見るとまさに八時半。外へ出てみると、空には降るような星の数。十日ばかりの
月が千光寺のうしろの山にかかっている。本鬼頭のまえの坂をのぼって、谷の奥の道にさ
しかかると、千光寺へのぼるつづら折れを、点々として炬火たいまつののぼっていくのが
見える。
「警部さん、ああして炬火をともしていくのは、まるで相手に目印をあたえるようなもの
じゃありませんか」
「いや、ああして炬火をともした一隊のあとには、別の一隊が灯もつけず、だんまりで進
んでいくという寸法です。つまり、あの炬火に狩り出されたやつが、だんまり組の網の目
にかかる、というだんどりになっているんだがね」
「なるほど」
 耕助や警部の一隊と、竹蔵のひきいる一隊は、谷の奥の道をまっすぐに進んで、天てん
狗ぐの鼻のところまで来た。そしてそこを左へ曲がると、さっき墓掘りの若い衆や、刑事
の一行がおりてきた坂をのぼっていった。島のこちらがわから摺鉢山へのぼるには、そこ
よりほかに道はないのである。
 竹蔵のひきいる一隊は狩り出し部隊で、めいめい炬火をかかげ、わざとワアワアいいな
がらのぼっていく。それから小一町おくれて、だんまり組の耕助たちは、黙々としてつい
ていく。天狗の鼻の上へは、日ごろあまりひとの行き来をしないところだから、道も細
く、坂もにわかにけわしくなる。空には月もあり、降るような星もあったが、それでもど
うかすると、道にはみ出している木の根に足をとられそうになる。
 せり出している山の角をひとつ回ると、いままでさえぎられていた視界がにわかにひら
け、摺鉢山の斜面からてっぺんにある海賊の砦へかけてひとめで見渡すことができる。
 それらの斜面のあちこちを、先発部隊の炬火が、鬼火のようにゆれながら蟻ありのよう
にはい登っていく。おりおりワッワッとののしる声が、遠く近くきこえてくる。と、不意
に耕助の頭によみがえってきたのは、さっききいた磬けい子すの音のゆるやかなひびき。
……耕助は突如、なんともいえぬ異様な気持ちにおそわれた。
 表は山狩り、奥は通夜。──そして蒼そう白はくになった早苗の面影、白拍子のような月
代の姿、座敷牢のなかの狂人の、野獣のような叫び声、さらにまた、鬼頭千万太の臨終の
ことばを頭にうかべると、耕助の眼には突如炬火が、ゆっさゆっさと大きくゆれて、いま
にも全島をつつんで燃えあがるかと思われた。
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