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第五章 お小さ夜よ聖しよう天てん(1)
日期:2023-12-01 13:49  点击:236

第五章 お小さ夜よ聖しよう天てん

 まえにもいったとおり、獄門島の全部落は、島の西側にかたまっている。そのことは、

海賊の襲来にそなえるための、こうした離れ小島における伝統的習慣にもよるが、もうひ

とつにはこの島の地形にもよる。獄門島には西側以外に、人の住めるような平地がないの

である。

 摺鉢山はそれほど高い山ではないが、西側をのぞいた他の三方では、突とつ兀こつとし

て海から躍り出した格好で、そこには投とう錨びよう地ちもなければ、陸と海とをむすび

つける足がかりになるような場所はどこにもなかった。だからいまこうして、島の西側へ

上がるのど首をおさえられ、しらみつぶしに狩り立てられたが最後、山へ逃げこんだ男

は、袋のなかの鼠ねずみも同様であった。

 半月はいま、摺鉢山の肩にかかっている。空には星がふるえるようにまたたき、銀河が

ながく尾をひいて、乳色にけむっている。獄門島はいまうすじろくいぶされた銀色の世界

である。そのなかを、点々として炬火たいまつが、狐きつね火びのようにゆれながら、山

の斜面をはいのぼっていく。摺鉢山のてっぺんには、昔の海賊の砦の跡がある。おりおり

若者たちのあげる鯨と波きの声が、あちこちの峰にこだまして、遠雷のとどろきのように

きこえる。

 磯川警部に引率され、黙々として山路をたどっていた金田一耕助は、一行のなかに床屋

の清公がまじっているのに気がついた。

「やあ、きみもいたのか」

 耕助が白い歯を出してわらうと、清公は首をすくめてにやにやしながら、

「ヘッヘッヘッ、なにしろ近来の大捕り物ですから、床屋の清ちゃん、じっとしちゃいら

れませんや。しかし、旦だん那な、たいへんなことになりましたねえ」

「ふむ、たいへんなことになった。それで島の連中、なんといっている?」

「そりゃあ、ま、いろんなことをいってますがね。しかし、そんなこと、どうせとるに足

らぬこってさあ。口にゃ税はかからねえから、勝手なことをほざくんでさ。だが、驚きま

したね。島の連中も驚いてますぜ」

「なにを……?」

「いえね、旦那のこってさ。はじめはね、みんな旦那が臭いっていってたんですぜ。そう

いっちゃなんだが、島のもんにとっちゃ、旦那はどこの馬の骨か、牛の骨かわからねえ風

来坊ですからね。疑われたってしかたがありませんや。金田一耕助って野郎が怪しいっ

て、みんないきまいてたんですぜ」

「おやおや、しかし、なんだってぼくが花ちゃんや雪枝さんを殺すだろう?」

「そりゃあなんでさ。本鬼頭の財産を横領するためでさ。怒っちゃいけませんぜ、旦那、

これは話なんだから。なあに、いまじゃもうだれもそんなバカげたこと、考えてるもんは

ありませんから御安心なさいまし、だが驚いたな、どうも、旦那が日本一の名探偵だなん

て、……島の連中も肝きもをつぶしてびっくりしゃあがった。だから、あっしゃいって

やったんだ。野郎、見損なうな。旦那はああ見えても江戸っ子だい。……」

「いや、ありがとう。それはそれでいいがね。ぼくが本鬼頭の財産を横領するというのは

どういうことだね。花ちゃんや雪枝さんを殺したからって、本鬼頭の財産が、ぼくのもの

になるわけがないじゃないか」

「なにね、それにゃちゃんと筋書きができてるんだ、と、こう吐ぬかしゃがるんです。つ

まりですな。月雪花の三人娘を殺したあげくが、早苗さんをたぶらかし、夫婦になって本

鬼頭に入りこむ……と、こういう筋書きだともっともらしく吐かしゃアがるんだ。そんと

き、あっしゃいってやった。馬鹿なことをいうな。かりにも旦那は江戸っ子だ。そんなま

わりくどいことをなさるもんか。金がほしけりゃパンパンと、ピストルかなんかぶっぱな

して、強盗でもなんでもなさらあ。だいいち、江戸のものがいつまでも、島の麦飯なんか

食ってくらせるかッて、……旦那、あっしゃはなから旦那のヒイキですぜ」

 たいへんなヒイキもあったもので、どっちにしても自分がそんな物騒な人間と見られて

いたかと思うと、耕助はおかしいような、空恐ろしいような感じだった。

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