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海賊の砦とりで(2)
日期:2023-12-01 13:55  点击:307

「ああ、清水さんだね。私だよ。気になるから様子を見に来た。さっきピストルの音がし

たようだが、悪者はつかまりましたかな」

 それは村長の荒木さんであった。例によってきっと口をへの字に結んだまま、歩きぶり

にも、物に動ぜぬ悠ゆう然ぜんたるところがあった。

「ああ村長さん、お通夜はすんだのですか」

「すみました」

「そして、本鬼頭のほうは……月代さんは大丈夫でしょうか」

「大丈夫ですよ。私が出るとき、御祈禱の声がしていましたよ。幸庵さんと了沢がみんな

の帰るまで待つといってる」

「和尚さんは?」

「和尚は、リューマチがいたむというので、さっき寺へかえっていった。分鬼頭の連中も

引きあげたが、しかし、なに、大丈夫、若い者が玄関に張りこんでいますからな」

 耕助はにわかに不安がこみあげて、しきりに胸が騒いだが、そのときだった。向こうの

ほうでまたもや、ズドンとピストルの音。それにつづいて、いたいた、という叫び、あっ

ちだ、あっちだとどなる声。

「そら、出た!」

 一同は、すでに走り出している。わっわっという鯨と波きの声が、海賊の砦を取りまい

て、炬火たいまつの火が右往左往する。

「どこだ、曲くせ者ものはどっちへ逃げた?」

「あっ、旦那、向こうです、ほら、尾根を走っていきます。気をつけてください。源の野

郎がけがをしました」

 遠くのほうから声がした。

「けがをした? 撃たれたのか」

「そうです。でも、かすり傷だから、大したことはありません」

「よし、気をつけてやれ!」

 海賊の砦は二段になっている。と、見れば上段の尾根づたいに背を丸くして走っていく

姿が見える。その尾根にもいたるところに、にょきにょきと岩が出ており、やせたひょろ

ひょろ松が生えているので、曲者の姿は見えたりかくれたりした。

「しめた、あっちへ行けばゆきづまりだ。向こうは深い谷になっている。こうなりゃ袋の

なかの鼠ねずみも同様です」

 清水さんは先頭に立って、上段の尾根へかけのぼった。なるほど、砦には格好の場所で

ある。尾根に立って見渡せば、東の海が一望のうちにおさめられるのである。月影を砕い

た波が、いぶし銀のように底光りしているなかに点々として黒い島影がちらばっている。

夜霧にけぶった漁いさり火びが、夢のようにまたたいていた。

「しめた、きゃつめ、とうとう行きづまりやがったぞ」

「清水君、危ない、むやみにちかづくな。窮きゆう鼠そかえって猫を食はむ。相手は手て

負おい猪じし同然だ」

 警部のことばも終わらぬうちに、突然、ズドンとピストルが鳴って、どこかでカチッと

弾丸のはねっかえる音がした。

「ひゃっ!」

 悲鳴をあげたのは床屋の清公である。一同ははっと首をすくめて、灌かん木ぼくのなか

に身を伏せると、岩を小楯にとりながら、と、みれば十数間けんかなたの岩陰に、男がひ

とりうずくまって、こちらをねらっているらしい。岩陰になっているのと、灌木におおわ

れているのとで、顔はもちろん姿もよく見えなかった。男の左側は深い谷である。そこか

らはもう逃げようにも逃げ道はない。相手は進退きわまったのだ。

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