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海賊の砦とりで(3)
日期:2023-12-01 13:55  点击:276

「おいピストルを捨てろ。おとなしくしろ」

 だが、それに応酬するかのように、言下にピストルがズドンと鳴って、弾丸が一同の頭

上をとおった。

「畜生、こうなっちゃしかたがない。清水君、撃ってみろ。だが、なるべく殺すな」

 清水さんが一発撃った。すぐ相手も撃ちかえしてきた。そこへ応援に駆けつけてきたお

巡りさんが、二、三発つづけざまにぶっ放した。

 と、そのときである。突如、高い悲鳴が虚空をつらぬいたかと思うと、男の姿がもんど

り打って、左に見える谷のなかへ転落していったのである。

「しまった!」

 一同が谷をのぞくと、男の姿はあちらの岩角、こちらの灌木につきあたって、毬まりの

ようにはねっかえりながら落ちていく。谷の向こうから、ワーッという歓声が起こった。

「とにかく下へおりてみよう」

 一同は、径こみちをもとめて木の根や岩角につかまりながら、斜めに谷をおりていっ

た。ちょうど谷のその側面はまともに月光を浴びているので、それほど危険なわざでもな

い。一同はやっと谷底へたどりついた。谷といってもそこは水が流れているわけではな

く、露出した岩から岩をつづって、一面に灌木がおいしげっている。

「どこだ、どこだ」

「たしかにこっちのほうだと思ったが……」

「あっ、あそこにだれかいる……」

 叫んだのは清公である。なるほど十間ほど向こうの灌木のなかに、黒い影が立ってい

る。その人影は身じろぎもしないで足下を見つめている。

「だれか!」

 警部が声をかけた。だが、相手は返事もしなかった。依然として凍りついたように足下

を見つめている。

「だれか!」

 かさねて警部が誰すい何かした。

「返事をせぬと撃つぞ!」

 警部の声に相手はかすかに首をふったが、そのとたん、耕助が灌木のなかでとびあがっ

た。

「あっ、警部さん、撃っちゃいけない!」

 耕助は落らつ下か傘さんのように袴はかまの裾すそをひろげながら、相手のそばへ駆け

寄ると、

「早苗さん!」

 そのとたん、相手は眼がくらんだようにくらくらと二、三歩たたらを踏んだ。耕助はす

ばやくそれを抱きとめると、

「あなたはなんだって……あなたはなんだって、こんなところへ来たんです」

 早苗の蒼白い顔が下から耕助を見上げている。大きく見開かれた眼は、耕助の姿をすい

こむように見つめているが、しかし、その実、なんにも見ていないのである。

「早苗さん」

 耕助はその耳もとに口を当てて叫んだ。

「早苗さん、あなたはこの男を知っているんですか。これはほんとうにあなたの兄さんで

すか」

 耕助は、足下にころがった男の死体に眼をやった。そのとたん、早苗の顔がベソをかく

ようにゆがんだかと思うと、

「ちがいました! 兄ではございませんでした!」

 血を吐くような声だった。そしてひしと両手で顔をおおうた。

 そのときである。あとから駆けつけて、死体を改めていた磯川警部が、ひざをはらって

立ち上がると、妙な顔をしてつぶやいた。

「不思議だ。どこにも弾丸のあとはない。この男はピストルに撃たれたのじゃなかったの

だ」

 耕助はギクッとしたように、反射的に海賊の砦を仰いだが、そこからではあの岩角は見

えなかった。月はいま頭のまうえにかかっている。……

 ちょうどそのころ、本鬼頭の屋敷のうちでも、ひとつの事件が起こっていたのである。

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