行业分类
吊り鐘歩く(1)
日期:2023-12-01 14:15  点击:244

  吊り鐘歩く

 悲劇は終わった。もうこれ以上恐ろしいことは起こらないだろう。……獄門島のひとび

とは、みんなそれを知っている。そして死人には気の毒だけれど、みんはほっとしたよう

な気持ちだった。

 だが、事件はこれで終わったわけではない。いや、これからがいよいよ、ほんとうの事

件というべきかもしれない。ものごとには、はじめがあれば終わりがなければならぬ。そ

していま、その恐ろしい終わりがちかづきつつあることを、島の人たちは感じている。

 島のひとびとがそれを感ずるのは、にわかにはげしくなった本土との往来である。警察

の船があとからあとからと島へついた。そしてそのたびにものものしい顔をした警察のひ

とびとが、どやどやと島へあがってきた。

 警察のそういうはげしい動きに反して、耕助はまるで傷心したもののようである。寝ら

れぬ一夜を明かした耕助は、放心したようにぼんやりと、警官たちの活発な動きをながめ

ている。しかし心のなかではしきりになにかをつかもうとあせっているのだ。しかもその

ものはすぐ眼のまえにぶらさがっているような気がするのだ。それでいて、つかもうとす

ればついと昏こん迷めいのなかへ逃げていく。なにかしなければならない。なにか打つ手

があるはずだ。……それはじりじりとしめ木にかけられるように苦しいいらだたしさであ

る。

 奥では和尚の了然さんが、仏にお経をあげている。太い了然さんの声にまじって、甲か

ん高だかい了沢君のふるえるような声もきこえる。村長の荒木さん、医者の幸庵さん、そ

れに分鬼頭の三人もいるはずだ。……

 耕助はふと下駄をつっかけて庭へおりた。それから魂の抜けたもののように、ふらふら

と勝手口から外へ出ていった。頭が熱してズキズキいたむ。潮風に吹かれてきたら、少し

はよくなるかもしれぬ。

 本鬼頭のまえのだらだら坂をおりると、そこに島の目抜きの場所がある。目抜きの場所

といったところで、小さな店が五、六軒、ならんでいるだけの話だが。そこを通り抜けよ

うとして、耕助はふと呼びとめられた。

「やあ、旦だん那な、どちらへいらっしゃるんで」

 それは床屋の清公であった。見ると床屋には五、六人、島のものが集まっている。

「旦那、寄っていらっしゃいよ。また、たいへんなことができたというじゃありません

か」

 耕助はためらった。

「いいじゃありませんか。いまもその話をしていたところなんで、仙せんちゃんが妙なこ

とをいい出しましてね」

「妙なことって?」

 耕助はふと足をとめた。

「親方、よせやい、そんなこと……」

 あわててとめたのが仙ちゃんだろう。

「いいじゃねえか。そりゃあ、そんな話、うそにきまってるさ。吊り鐘が歩き出すなん

て、そんなバカなこたアねえが、でも、こういう事件の起こったときにゃ、なんでもかん

でもお耳にいれておくもんだ。ねえ、旦那」

 別の男が口をはさんだ。

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/23 17:11
首页 刷新 顶部