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忠臣蔵十二段返し(3)
日期:2023-12-01 14:44  点击:314

「なるほど、つまりそれは風流ではなくて、江戸末期の通つう人じん趣味なんですね。と

ころで、千光寺の和尚さんや村長、それに幸庵さんなどもそういう会へ出たんでしょう

ね」

「もちろん、あの三人は常連だった。千光寺の和尚は、年こそ嘉右衛門さんより下だった

が、気持ちからいえば兄貴分みたいなもので、嘉右衛門さんも一目おいていたし、また、

和尚のほうでは、駄々っ子をあやすぐらいの気持ちで、嘉右衛門さんがなにか思いつく

と、あいよあいよと付きあっていなすったようだ。それにくらべると村長や幸庵さんの気

持ちはだいぶちがう。これはもうわが身かわいさにおたいこをたたいていたといわれても

しかたがあるまい。わしにはそれがいやだった」

 儀兵衛さんの声には、はじめて感情のうごきがあらわれた。強くはないがどこか吐きす

てるようなひびきがあった。

「嘉右衛門さんはあの三人を、よほど信用していられたのでしょうね。後事を託していか

れたくらいだから」

「まあ、そうじゃろう。わしとのあいだに溝ができた以上、島で話し相手になるのはあの

三人きりだからな。しかしなあ、金田一さん、嘉右衛門さんが臨終で、あんなに苦しまれ

たというのは、なにも、わしのことばかりじゃない。なに、家のなかさえうまくいってい

たら、わしなど眼中にある人ではなかったが、なんしろ与三松さんのことがあるでなあ。

これを思えば与三松さんがお小夜という女に手をつけたのが、そもそも本鬼頭のつまずき

のはじめじゃったなあ」

「そうそう、そのお小夜さんという人についてお伺いしたいのですが……」

「お小夜か、あれは気ちがいでしたな。あんたは知るまいが、この中国筋にはカンカンた

たきという筋のものがある。四国の犬いぬ神がみ、九州の蛇へび神がみ、それとは少しお

もむきがちがうが、ふつうの者と交わりができぬものとしてある。いわれを話すと古い

が、なんでも陰おん陽みよう師じ安あ倍べの晴せい明めいが、中国筋へくだってきたと

き、供のものがみんな死んでしもうた。そこで晴明さん、道ばたの草に生命をあたえて人

間とし、これをお供にして御用を果たしたが、さて京へかえるとき、もとの草にもどそう

とすると、そのものどものいうことに、せっかく人間にしていただいたのだから、このま

までおいてくだされと頼んだそうだ。そこで晴明さんもふびんに思って、そのまま人間に

しておくことにしたが、もとをただせば草だから、たつきの業を知らぬ。晴明さん、そこ

で祈き禱とうの術を教えて、これをもって代々身を立てよといいきかされたというのじゃ

が、その筋のものを草人、一名カンカンたたきといって、代々祈禱をわざとしている。根

が草のことだから、人交わりはできぬというので、ふつうのひとはいみきらう。お小夜は

その筋のものだというのだが、うそかほんとかわしは知らぬ。なんでもいま村長をやって

いる荒木が、どこかで調べて来おって、それを嘉右衛門さんに吹っこんだものだから、嘉

右衛門さんはいよいよお小夜をいみきらうようになったのじゃな」

「村長が、しかし、なぜそんなよけいなおせっかいをしたものでしょう」

 儀兵衛さんはふいと渋いわらいをうかべると、

「かわいさあまって憎さが百倍……はっは、荒木真喜平、いまでこそ村長におさまって、

しかつめらしい顔をしているが、昔はあれで相当のものじゃったな。お小夜なども与三松

さんと張り合ってだいぶいざこざがあったもんじゃ」

 耕助はまた、暗中でなにかにぶつかったような心地で、どきりと瞳ひとみを光らせた。

「あのひとが……?」

「そうじゃよ。人は見かけによらぬもの。しかし、お小夜を憎んだのは村長ばかりじゃな

かったな。幸庵さんなどもその当時患者はすっかりお小夜にとられる。お小夜がやぶのな

んのと陰口をたたくものだから、すっかりさびれて大弱りだった。しかし、まあ、だいた

いお小夜のほうが悪かったな。わしはべつに深いかかりあいはなかったが、それでもお小

夜という女はきらいだった。あんな女にひっかかった与三松さんをいまでも気の毒な人と

思うている」

 耕助はしばらく無言のまま、じっとなにか考えていたが、急にまた思い出したように、

「ときにそのお小夜という女ですがねえ。この島で道成寺を演じたといいますが、そのと

き使った吊り鐘はその後どうなったでしょう」

「吊り鐘……?」

 儀兵衛さんは不審そうに眉まゆをひそめて、

「吊り鐘といったところで、芝居の道具だから、竹に紙をはってこさえたものだが……」

「そうです、そうです、そのこさえものの吊り鐘ですが、それはその後どうなったでしょ

う」

「そう、そういえばあの吊り鐘は、本鬼頭の蔵のなかにあったはずじゃが……さあて、そ

れからどうしたか、仕掛けで、パッとまんなかから割れるようになっていたが……」

 仕掛けでパッとまんなかから割れる吊り鐘……ああ、それにちがいない。耕助はのどの

奥がひっつるような気持ちだった。

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