「いや、ありがとうございます。たいへん参考になることをきかせていただきました」
耕助がしずんだ調子で礼をいうと、儀兵衛さんはおだやかに、
「いや、あなたがたの職業もたいへんですな。ずいぶん頭をつかうことでしょう」
「いやあ」
耕助は力なくわらって、
「警察の連中がやってきたので、すっかり素性がばれちまいまして」
「警察のひとがやってきたので……?」
儀兵衛さんはふいと眉まゆをひそめると、
「それはどういうわけかな。わたしはずっとせんから、あんたのことは知ってましたよ」
「な、な、な、なんですって?」
耕助は突然、脳天から楔くさびをぶちこまれたような驚きを感じた。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくのことを御存じだったんですって? だ、だ、だ、だれがそんなこと
を……」
「村長だよ。いや、わしは村長からじかにきいたわけじゃない。助役からきいたのじゃ
が、金田一……珍しい名字だからな。村長はすぐ、ずっとせんの、……なんといったか
な、そうそう『本陣殺人事件』……あれを思い出したらしい。役場にある古い新聞のとじ
こみをひっぱり出して調べているところを、助役が見たそうじゃ。そのとき、村長はだれ
にもこのことはいわぬようにと口止めしたが、助役はわしにだけ、こっそり耳打ちしてく
れてな。しかし、妙だな、あんた、いままでそのことに気がつかなかったのかな」
村長が自分のことを知っていた。村長が知っていたからには、和尚や幸庵さん、少なく
とも和尚だけは知っていたにちがいない。
おお、なんということだ? 耕助にとって文字どおりそれは青天の霹へき靂れきであっ
た。