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第七章 見落としていた断片(1)
日期:2023-12-01 14:45  点击:292

第七章 見落としていた断片

「了沢さん、了沢さん、ちょっとあなたにお尋ねしたいことがある」

「はい、金田一さん、なんでござりますか」

「花ちゃんが殺された晩のことですがねえ。あれは千万太君のお通夜の晩のことでした

ね」

「はい、さようでござりました」

「あの晩、ぼくは和尚さんにたのまれて、ひとあしさきに寺を出て、分わけ鬼頭へ使いに

いきましたね。そしてそれから本ほん鬼頭へ行こうとあのつづら折れのふもとまで来る

と、うえからあなたと和尚さん、それから竹蔵さんの三人がおりてきましたね。覚えてい

ますか、あのときのことを……」

「はい、よく覚えております。しかし、それがどうかしましたか」

「あのときあなたは、寺からずっと、和尚さんや竹蔵さんといっしょでしたか。つまり寺

を出て、ぼくに出会うまでずうっとふたりといっしょでしたか」

 了沢君は不思議そうな眼で耕助を見る。

「金田一さん、あなたがなぜそんなことをお尋ねになるのか知りませんが、それなら、い

いえとお答えするよりほかはありません」

「いいえ……? それじゃあなたは、和尚さんや竹蔵さんといっしょに、あそこまで来た

のじゃなかったのですか」

 耕助はすこしせきこんでくる。了沢君はいよいよ不思議そうに眉をひそめて、

「寺を出たときはいっしょでした。しかし、山門を出るとすぐ、和尚さんが忘れものを思

い出されて、とってきてくれとたのまれたのです。忘れものというのは経文をつつんだ袱

ふく紗さづつみでした。方丈の二月堂のうえにあるからとおっしゃるのです。わたしはす

ぐ引っ返しましたが、二月堂のうえに袱紗づつみはありません。和尚さんが思いちがいを

されたのであろうと思って、そこらじゅうを探してみましたが、袱紗づつみはどこにも見

えません。とうとう探しあぐねて、寺を出て、つづら折れのふもとまで来ると、そこに和

尚さんと竹蔵さんが待っていられて、すまん、すまん、袱紗づつみはふところにあった

よ、と和尚さんがわらわれたのです。あなたに出会ったのはすぐそのあとのことでした」

 耕助はなやましげな眼つきをして、

「すると、竹蔵さんはずっと和尚さんといっしょだったのでしょうか。竹蔵さんにはつづ

ら折れの途中で会いましたが、あのひとは寺まで行ったのですか」

「いいえ、山門を出たところで、竹蔵さんに出会ったのです。わたしはそれからすぐに寺

へ引き返しましたが竹蔵さんはもちろん、和尚さんといっしょだったと思います」

「いや、ありがとうございます。ときに和尚さんは?」

「分鬼頭へ行くといって出られました」

「分鬼頭へ……? なんの用事だろう」

「鶴つる見みの本山から允いん可かがおりたので、あした伝法の儀式をあげて、寺をわた

しにゆずるとおっしゃいます。それについて、いまではなんといっても分鬼頭が、島いち

ばんの網元ですから、了解を得に行かれたのです」

 了沢君はいまにも泣き出しそうな顔色だった。

「寺をゆずる? 寺をゆずって和尚さんはどうなるのですか」

「作州のおくにある隠居寺へひっこもるといっていられます。まえからそういう話になっ

ておりましたが、なにもこんなに急がなくても……わたしはどうしてよいかわかりませ

ん」

 了沢君は途方にくれた面持ちである。

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