行业分类
第七章 見落としていた断片(2)
日期:2023-12-01 14:46  点击:314

 耕助はそれをなぐさめて寺を出たが、そのあしどりには力がなかった。

 つづら折れの途中まで来ると、道ばたに地じ神がみ様の祠ほこらがある。耕助はその祠

に立ち寄って狐きつね格ごう子しのあいだからなかをのぞいていたが、なにを見つけたの

か、急に大きく眼をみはった。いそいであたりを見回すと、狐格子をおしてみる。格子に

は鍵かぎがかかっていなかったとみえてなんなくひらく。耕助はうすぐらい祠のなかにふ

みこんだ。

 たしかにちかごろ、この祠のなかへ入ったものがあるにちがいない。床のほこりがふみ

あらされて、しかもひとひら、色美しい花弁が落ちている。造花の花弁──花かんざしのひ

とひらなのである。それをひろって手帳のあいだにはさむと、耕助はゾクリとはげしく身

ぶるいをし、それからそっと地神様の祠を出た。

 坂をくだって本鬼頭まで来ると、そこには相変わらず、ものものしい顔つきをしたお巡

りさんが出たり入ったりしている。三人娘の仮埋葬は昨夜のうちにすませたが、本葬の日

取りは未定である。

「千万さんのお葬式もすまないのにこんなことになって……それに、亡くなられた御隠居

様の一周忌ももうまぢか、なにもかもいっしょになって……」

 と、昨夜勝野さんがなげいていたのを思い出し、耕助は暗あん澹たんたる気持ちであっ

た。

 台所のほうへまわると、さいわいそこに竹蔵がいた。耕助はそっとかれを物かげへまね

いて、

「竹蔵さん、竹蔵さん、ちょっとあなたにお尋ねしたいことがある」

「はい、お客様、なんでござりますか」

「花ちゃんの殺された日の晩のことですがね、あの日の夕方、千光寺へのぼるつづら折れ

の途中で、あなたと会いましたね、覚えていますか」

「はい、よく覚えております」

「あれからあなたは坂をのぼっていかれたが、山門のところで、和尚さんと了沢さんに会

われたそうですね。了沢さんはそのとき、和尚さんに忘れものをたのまれて寺へ引き返さ

れたそうですが、さてそのあとのことです。あなたはずっとつづら折れのふもとまで、つ

まり分鬼頭から引き返してきたぼくと出会うまで、和尚さんといっしょでしたか」

「はい、いっしょでござりました」

 竹蔵は不思議そうな眼で耕助を見る。

「ほんとうに? かたときも和尚さんのそばをはなれませんでしたか。竹蔵さん、このこ

とは非常に大事なことなのだから、よく考えて正確に答えてください」

 竹蔵はおびえたような眼をして耕助を見ながら、しばらく考えていたが、

「ああ、そういえば……そうです、そうです。坂の途中で和尚さん、下げ駄たの鼻緒を切

らせて、……わたしがすげてあげるというのを、いいから先に行ってくれといわれたの

で、わたしはつづら折れのふもとまで、先にやってきたのでござります。すると和尚さん

があとから追っかけてこられて、話をしているところへ了沢さんもやってきたのです。そ

れで三人そろって歩き出したところへ、あなたが分鬼頭のほうから来られたのでござりま

す」

 耕助の胸はずうんと重くなってくる。どうにも救いようのない気分なのである。

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/23 17:21
首页 刷新 顶部