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封建的な、あまりに封建的な(3)
日期:2023-12-01 14:55  点击:293

「昨日あんたが張り子の吊り鐘を、海からひきあげるのを見て、こりゃもういけぬと思う

た。あそこまで見通しのおまえさんじゃ。罪をひきうけるのなんのと、そんなチャラ臭い

ことできぬと知った。そこで村長と幸庵に注意に行ったが、幸庵め、例によってズブズブ

に酔うていたのでそのままかえった。そうか、村長は逃げたか。そして幸庵はどうした

な」

「その幸庵さんは……」

「その幸庵は……」

「さっき、気が狂うて……」

「気が狂った……?」

 了然さんは張りさけるように眼をみはった。が、やがてしずんだ色になり、ほうっと太

いため息をついた。

「そうか。……いや、そうあろう。あれはいたって気の小さい男だから、キナキナ思いつ

めたあげくに……」

「いいえ、そればかりではありません。きょう、笠岡の本署から、清水さんのところへ電

話がかかってまいりまして……」

 耕助の語尾がふるえて消えた。了然さんは不思議そうに眉をひそめて、

「笠岡の本署から電話が……? 金田一さん、それがなにか幸庵と関係があるのかな」

「和尚さん」

 耕助はあつい息を吐いた。

「これはいいたくないことです。いわずにすむならすませたい。笠岡からかかってきた電

話というのは、神戸で復員詐さ欺ぎがつかまって、ビルマから復員した男だそうですが、

戦友の留守宅を、かたっぱしからかたって歩いていたんです。そいつのいうのに、生きて

いると知らせてやると、留守宅のよろこびも格別で、ごちそうもお礼もフンパツするが、

死んだというとそれほどでもない。そこで一計を案じて、戦死した戦友でも、生きている

ように報告することにきめたという。……」

 了然さんの顔に、ふいに動揺があらわれた。大きく、息をはずませながら、

「き、金田一さん、そ、それじゃもしや一さんは……」

 耕助は和尚の顔を見るのがつらかった。この一言こそ、和尚がきずきあげた自慰の楼閣

を、むざんにつきくずすものである。

「そうです、戦死したのだそうです。しかし、それを正直にいうと、謝礼のたかが少ない

と思うたので……ああ和尚さん!」

 不意に和尚が立ち上がったので、耕助と磯川警部は、あなやとばかり身をうかせた。

 和尚はしばらく微動だにしなかった。大きく見開かれた眼は、生命なきガラス玉のごと

く、光をうしなってぼんやりにごっていた。和尚はなにかいおうとした。しかし、ことば

は出ずにただくちびるがパクパクうごいたばかりである。和尚は耕助を見、それから磯川

警部を見て、ゆっくり首を左右にふった。……と、思うと、左右の頰ほおにみみずのよう

な血管がおそろしくふくれあがって、顔色が、気味悪いほどギタギタと紅潮してきた。

「南無……嘉右衛門どの」

「あっ! 和尚!」

 左右から駆けよる耕助と、磯川警部の手をはらいのけるようにして、和尚はどうと、朽

木を倒すようにひっくりかえった。

 それが了然さんの最期であった。

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09/23 15:30
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