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第三章 椿子爵謎の旅行(6)
日期:2023-12-05 15:54  点击:253

す。あのひとたちは父を軽けい蔑べつしていたんです」

 美禰子はギリギリと歯ぎしりをするような調子になって、

「新宮家のひとたちには、父がとても無能に見えたんです。そしておとなしい父が、何を

されても、何をいわれても、少しも反抗しないのをよいことにして、あらゆるいやがらせ

をして、父をいじめ、困らせ、なぶりものにすることをもって、無上のよろこびとしてい

たんです。新宮の伯父がことにそうでした。御自分がなんの取り柄もないひとですから」

 キッパリと云いきった美禰子のことばの調子には、まるで歯のあいだから血でもしたた

りそうな辛しん辣らつさがあった。金田一耕助は興味ふかくその顔を見まもりながら、

「お母さんもそうだったというんですか」

「いいえ、母は少しちがっていました」

 美禰子は急にものうげな声になって、

「母は無邪気なひとなんです。赤ん坊みたいなものです。しかし、その母に非常に大きな

影響力をもっているのが玉虫の大伯父なんです。大伯父のすることなすことはすぐ母にひ

びきます。その大伯父が父を犬か猫なみにしか扱わないものですから、母もつい、父を無

視する習慣がついてしまって。……母はいま、それを後悔しています。いいえ、後悔とい

うよりも恐れているんです。父が復ふく讐しゆうにかえって来やあしないかと、子供のよ

うに怖おそれおののいているんです」

「なるほど、それでお父さんが生きていらっしゃるという幻想を、抱きはじめたんです

ね」

「ええ、でも、それが幻想であるうちはまだよかったんです。ところが、……先生、母は

つい最近、父にあったというんです」

「お父さんにあったって? いつ、どこで?」

 金田一耕助は驚いて、美禰子の顔を見直した。美禰子の顔がまたウィッチに見えてく

る。

「いまから三日まえ、二十五日の日でした。母は菊江さんと女中の種をつれて東劇へいっ

たんです。母たちの席は平土間のまえのほうでしたが、幕まく間あいに何気なくふりかえ

ると、二階の最前列の席に、父が坐すわっていたというんです。それ以来母は気がふれた

みたいになっています。菊江さんや種もすっかり怯おびえて……」

「それじゃほかのひとたちも、それをお父さんだと認めたんですね」

「ええ、第一、いちばん最初にそれに気付いたのは、菊江さんなんです。菊江さんが母や

種にそれを報しらせたというんです」

「そのときそのひとがほんとにお父さんかどうか、たしかめようとしなかったんですか」

「ええ、それがあまり気味が悪くて、ちょっとその勇気が出なかったと、菊江さんや種は

いってます。それにそのひと、三人に見られていることに気がつくと、つと体をひっこめ

て、あとで菊江さんと種がやっと勇気をふるい起こして、たしかめにいったときには、も

うどこにも姿が見えなかったそうです」

 美禰子はそこで言葉を切ると、まるで反応をためすような眼まな差ざしで、まじまじと

金田一耕助の顔を視みつめている。耕助の胸の底に、まるで薄墨がひろがるように、不安

がはびこっていくのをおぼえる。

「それで……?」

「それで、明晩うちで占いをしていただこうということになっているんです」

「占い?」

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