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第四章 砂占い(2)
日期:2023-12-05 15:57  点击:322

「いや、これはな、なにもわしが発明したというわけじゃありませんのじゃ。古くからシ

ナにつたわっている占いを、わしがいくらか改良したものじゃが、ふしぎによう当たりよ

る」

「よほど長く御研究ですか」

「そう、もう十年以上になるな。日支事変のはじめごろ、一年あまり北ペ京キンにいたこ

とがあるのじゃが、そのとき憶おぼえてきたのを、その後まあ、いろいろ研究しまして

な」

「向こうでも砂占いというのですか」

「いや、あっちでは乩けい卜ぼくとか扶ふ乩けいとかいうとるようじゃな。まあ、日本の

コックリさんみたいなものじゃと思えば間違いはないが、コックリさんよりは、あらたか

じゃ。ところであんた、一彦君の先輩じゃというがほんとかな」

 大きなよく光る目賀博士の眼でジロリと見られて、金田一耕助はあわてて、

「ええ、そ、そうです、そうです」

 それから、急いで話題をかえるために、

「ときに、その占いはいつはじまるんですか」

 目賀博士はつめたく眼の奥でわらいながら、

「停電になったら、はじめようということになっとるが」

「停電になったら……?」

「そう、 子さんの神秘主義じゃな。家中がまっくらなほうがええちゅうてな。もっとも、

くらがりでは占いは出来んから、ホーム・ライトをつけることになっとるが……今夜の緊

急停電は八時半から三十分間じゃから、もう間もなくのことじゃな」

 昭和二十二年ごろの逼ひつ迫ぱくした電力事情を御記憶のかたは、地区ごとに時間をき

めて、電気をきられるやりきれなさをいまも憶えていられることだろうと思う。占いはそ

の停電の時間を利用して行なわれようというのだ。

 目賀博士が大きな懐中時計を出してみているところへ、廊下から若い男が顔を出して、

「先生、だいたい準備が出来ましたが、ちょっと、御検分願えませんか」

「ああ、そうか、よしよし」

 目賀博士は気軽に立ちあがったが、すぐ気がついたように、

「金田一さん、ちょっと失礼しますで」

「さあ、どうぞ」

「三島君、ホーム・ライトの用意はええかな」

「ええ、それはお種さんに頼んでおきました」

 三島君ときいて、金田一耕助は思わず青年の顔を見直した。背の高い、がっちりとした

体格の、色の白い、美び貌ぼうというのではないが、にこにこと笑顔のいい、愛あい嬌き

ようのある青年だった。金田一耕助に目礼すると、そのまま目賀博士といっしょにいって

しまったが、後ろ姿を見ると目賀博士はひどいガニ股まただった。

 金田一耕助は時計を出してみる。時刻はちょうど八時二十分。

 それでは、もうそろそろ緊急停電のはじまる時刻だが、美禰子はいったいどうしたの

か。さっき耕助が訪れてくると、すぐ玄関へとんで出て、この応接室で、目賀博士を紹介

すると、母にそういってくるからと出ていったまま、いまだにやって来ないのである。

 金田一耕助はハンケチを出して額を拭ぬぐうと、お釜帽を両手にもってバタバタ煽あお

いだ。ひどく蒸し暑い晩で、じっとしていても汗がにじみ出る。また雨になるのか知ら

ん。……

 金田一耕助がぼんやりそんなことを考えているところへ、廊下に軽い足音がきこえて、

中年の男がふらりと入ってきたが、耕助の姿を見ると、びっくりしたように立ち止まっ

た。

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