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第五章 火か焰えん太だい鼓こ(1)
日期:2023-12-05 16:00  点击:307

第五章 火か焰えん太だい鼓こ

 その夜、目賀博士司会のもとに、風がわりな砂占いがおこなわれた場所こそは、すぐそ

の直後に、あの血みどろな密室殺人の演じられた現場として、大きな問題をなげかけた部

屋なのだから、ここにいささか筆をついやして、部屋の様子を描写しておこう。

 その部屋というのは、だいたい十六畳じきくらいの、奥に細長い洋間で、廊下にむかっ

た入り口には、観かん音のんびらきの、厚い樫かしのドアがついており、そのドアは内側

から閂かんぬきがはまるようになっている。そのドアのすぐうえには、ちょうど入り口の

はばだけの、横に細長い換気窓があり、そこには四枚のガラス戸がはまっていて、そのう

ちの二枚は左右にひらくようになっているが、この換気窓のたてのはばは、曲かね尺じや

くで五寸あるかなしかだから、たとえガラス戸をはずしたところで、人の出入りはおろ

か、頭を出すことすら出来なかった。

 さて、部屋へ入ると正面の壁一杯に、大きな窓があるが、その窓は全部二重窓になって

いて、外側の窓には厳重に鎧よろい扉どがおりるようになっている。

 つまりこの部屋は失しつ踪そうした椿子し爵しやくの、いわばアトリエだったのだ。閑

ひまさえあると子爵はそこで、作曲や演奏に余念がなかった。だからこの部屋は、家人の

居間や寝室からとおくはなれているうえに、壁には全部防音装置がほどこしてあるので、

ここでちょっとした格闘が演じられたとしても、家人が気がつかないのも、無理がないよ

うに出来ているのである。

 しかし、その夜、金田一耕助が、菊江の案内で観音びらきのドアのなかへふみこんだと

きは、部屋のようすはだいぶちがっていた。かれはそこがそんなひろい部屋だとは、事件

が起こってもういちど、ひきかえしてくるまでは、夢にも気がつかなかったのである。

 それというのが天井からたらされた、重いまっ黒なカーテンで、部屋の一部が三方から

くぎられていて、カーテンのむこうは見えなかったからである。

 カーテンの内部は八畳じきくらいもあったろうか、天井につるされた、自家充電のホー

ム・ライトの笠かさから出る、ほの暗い、末ひろがりの光のなかに、大きな円卓をとりか

こんで、椿、新宮、玉虫の三家族が、おもいおもいの格好で、黙々として腰をおろしてい

る。

 金田一耕助はしかし、それらのひとびとを観察するまえに、円卓のうえにおかれた異様

なものに、眼をひかれた。

 それは直径一メートル半もあろうかと思われる、大きな、浅い陶器の皿で、皿のなかに

はいちめんに、白い、細かい砂がもられて、きれいに表面がならされていた。そして、そ

の上に、なんともいえぬ変てこなものが置かれているのである。

 それは直径十センチくらいの、円い、薄いお盆のようなものに、五本の細い、繊細な雌

竹をとりつけたものである。五本の竹はお盆を中心として、星型に規則正しく放射されて

おり、そのはしは陶器の皿より十センチぐらいはみ出している。そして、それらの竹のは

し十五センチほど内がわに、高さ三十センチばかりの、これまた細い繊細な雌竹が、脚と

してとりつけてあり、これらの五本の脚は、皿にもられた砂の周辺に、規則正しい五角型

をつくる頂点の位置に安定している。

 つまり砂を盛った皿の表面から、三十センチばかりの高さのところに、五本の放射線を

持った小さいお盆が、砂の表面と平行においてあるわけだが、このお盆の中心から、やは

り長さ三センチばかりの金属製の錐きりがぶらさがっていた。この錐はお盆のうらや、五

本の放射竹の下側にとりつけてあるレールに沿うて、微妙な動きをしめすようになってい

て、それが砂のうえに、占いの文字を書くらしい。つまりこれが目賀博士改良するところ

の、扶ふ乩けいとか乩けい卜ぼくとかいうものなのであろう。お盆も竹も竹の脚も、支那

ふうに真赤な漆うるしで塗ってあった。

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